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第27話
……やっぱり、急にらしくないことなんかしても、ダメだなあ。
結局、何にもできないや。
さっきまで昂ぶっていた気持ちがしおしおとしぼんでいって、またいつもの自分に戻っていく…
こんな僕だから捨てられるんだって……分かっているのになあ…
じんわり目に涙がたまってきて……ほら、泣き虫な自分までかえってきた。
『……すみません……もういいです……』
そう、言おうとしたそのとき…
「いいぞ」
え?
僕の耳もとで、先輩が囁いた。
背中越しだから、その表情は見えない。見えないけれど…
「本当のこと、言っていいんだぞ、別に。世間体とか職場のこととか、細かいことは気にするな」
「………でもっ、それは…」
「忘れたのか?俺は『お前と一緒にいるだけで幸せ』なんだぞ?」
───一緒にいるだけで、幸せ?
……ああ、そうだ……あの日、4人で旅行した日……やっぱり今みたいに別れようって思ってた僕に先輩が言ってくれたんだ。
先輩は、僕といるだけで幸せなんだって……それに僕だって、先輩がいてくれるだけで幸せなんだ。
……こんな大事なこと、どうして忘れていたんだろう。
他の誰が非難したって、他の誰に蔑まれたって、僕は……僕たちは一緒にいられたなら、それだけで幸せなんだ。
あの日の先輩の涙に嘘はなかった。
だから、あの言葉にも嘘はないはず。
なら、僕だってあきらめずに勇気を出して言おう。いや、言えるはずだ。
「……資格なら、ちゃんとあります」
目の前で二人のやりときに怪訝な表情を浮かべている彼女を正面から見据える。
……怯んだら負けだ。
怖くても不安でも、今言わなければ一生後悔する。そんな気がした。
すぅっと息を吸い込んで……よし!
「僕たち、付き合ってるんです……先輩は僕の恋人ですから!」
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