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第28話
『先輩は僕の恋人』
それは自分の口から出た言葉なのに、じんわりと胸の奥に染み込んで、僕の心を温かく包んだ。
ついさっきまであんなに不安で、自信がなかったのに……今だったらどんなことでも乗り越えられるような気がするから不思議だ。
でも、彼女にとっては思ってもみなかったとんでもない言葉だったようで……しばらく呆気にとられた後、すぐに問い詰めるように話し始めた。
「何、言ってるの?……あなた、どう見たって男でしょ?恋人になんかなれるわけないじゃない!」
「確かに僕は男ですけど、僕たちにとってはそんなこと、どうでもいいことなんです」
「どうでもいいって──よくないに決まってる!男同士の恋愛なんて、おかしい!」
「………そんなの、分かってますよ」
「分かってないわ!大体この先一緒にいたところで、結婚だってできないし、子どもだってできないじゃない!」
「………ええ」
「世間にも家族にも認めてなんてもらえっこない!一生隠さなきゃいけないような秘密の関係だなんて、もつはずがないし!」
「……………」
「でも、あたしならそのどれもを与えてあげられる。あなたにはできないことを、私ならできるわ」
「そう、でしょうね。でも、先輩は渡せません──僕は一生離れませんから」
どれもこれも、彼女が言うことが正しい。
でも、先輩は譲れない……あんなに苦しい想いをまたするのだったら、今ここであがいてやるんだ。
「……………何よ、それ……気持ち悪い…」
僕の正直な想いを口にしたとたん、彼女は本当に嫌そうに顔をしかめて言った。
何だかとても汚れたものでも見るような、蔑んだ目で僕を見ている。
……これがきっと、世間一般の人の感覚なんだろう……僕と先輩が一緒に生きるということは、こういう視線にさらされるということなんだ。
じわりと嫌な汗がにじむ……それでも何か言い返さなきゃと思ったそのとき…
「─────わっ!」
後ろから先輩の右手が伸びてきて、僕の肩から胸にかけてをぐっと後ろに引き寄せた。
びっくりして倒れそうになったところを、今度は左手が僕の腰に回されて……体勢を立て直してくれた。
───何!?あの人が見てるのに!
ぎゅっと抱きしめられているのが恥ずかしくてじたばたともがいていたら、先輩の優しい声が耳もとで聞こえた。
「ありがとな、葵……あとは俺の出番な?」
大好きな声が僕にお礼を告げて……安心したら力が抜けて……後ろから包み込んでくれている先輩に、抵抗なくもたれることができた。
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