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第33話
背中から不意打ちをくらうことになった先輩は、そのまま目の前のベッドに倒れこんだ。
……もちろん、背中にぺったりとはりついたままの僕も一緒に。
「いってぇ……葵、どこか打ってないか?」
うつぶせになったまま先輩が声をかけてくれたけど、返事はしないままぎゅっと腕に力をこめた。
このまま離れるのは嫌だったから。
「……………葵?……どうした?」
心配そうな先輩の声……でも、放してなんかあげない。
もっと、もっと、くっついていたい。
今日はね、今日ぐらいはね、わがままになってもいいと思うんだ。
「……あーおーいー……何とか言ってくれよー……」
困らせてるのは分かってる……分かってるんだ……
でも、僕……先輩不足で苦しいんだもん……
お願い……お願いだから、もう少しそばにいさせて……
「………おーい……葵ちゃーん……?」
……ああ、やっぱりダメだ。
先輩の困った声を聞いてしまえば、心は簡単に揺れてしまう。
こんなわがまま、先輩に嫌われちゃうかも……嫌われるくらいなら、放してあげた方がいいや。
ぎゅっと目をつぶって、口唇を噛んで……我慢しなくちゃって手を放そうとしたそのとき…
「葵。俺の右手も左手も、手持ち無沙汰にヒマしてるんだけど?」
───え?
「お前がちょっと……んー、一秒でいいから離れてくれたらさ、俺ひっくり返って仰向けになれるんだよな」
「……………」
「そしたら、お前のこと……両手でぎゅっと抱きしめてやれるんだけど……どうする?」
「……………」
「葵?」
「……………ぎゅって?」
「ああ、ぎゅって」
ホントに?
さっきみたいにぎゅっと抱きしめてくれるの?
また、離れていってしまわない?置いて行ったりしない?
不安な気持ちもあるけれど、やっぱり先輩の腕の中にいたい気持ちが強くて……僕はベッドに膝を立てて、身体を起こした。
先輩は僕の動きにいち早く気づくと、「よしっ」と身体を動かしてすばやく仰向けの姿勢になった。
それからようやく自由になった両腕を僕の方へ差し出すと…
「ほら、来い!」
そう言って、いたずらっぽく笑った。
でもそんな笑顔はすぐに涙で見えなくなって。
このまま、先輩を見失ってしまう前に……と、あわてて僕は先輩の胸に抱きついたのだった。
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