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第34話

改めて抱きついた先輩の胸は、とくんとくんという鼓動がいつもより少し早い気がする。 先輩も、今日はドキドキしたりハラハラしたり……僕と一緒だったのかな…? 背中に回されていた右手がすっと離れて、今度は僕の頭を撫でた。 何だか、よしよしって……よくやったって……褒められてるみたいでくすぐったい。 「………葵?」 「………うん…」 「今までごめんな……心配かけちゃったな……」 その申し訳なさそうな声に、首をふるふると横に振ってこたえる。 謝らなくたっていいんだ。先輩のせいじゃないし… 「最初はまさかこんなにこじれるなんて思ってもなかったし……お前に迷惑かけたくなかったんだ」 「……迷惑?」 「あいつ、いかにも面倒そうだったろ?お前を巻き込んじまったら、嫌な思いさせるって思ってたんだけどな…」 そう言って苦笑いした先輩は、また右手を僕の背中に回すと、ぎゅっと強く抱きしめてくれた。 その手の強さが、先輩の僕への想いと後悔とを表しているようで、ぐっと胸が苦しくなる。 ……心も身体も離れてしまったと思っていたけれど、そうじゃなかった。先輩は先輩なりに僕のことを考えていてくれたんだ。 「……………先輩……」 「ん?」 「……………好き……」 「うん……俺も……俺も、好き…」 「好き」って言ったらちゃんと「好き」って返ってくる……そんな些細なことがすごく嬉しい。 言葉にするって、とっても大切なことなんだって、今なら分かるよ。 だから、ね? 「………先輩……あの…あのね…?」 「うん……どうした?」 「……あの……えーと……僕ね……」 久しぶりだからかな……何だかすごーく照れて、言いにくくて… でも、先輩は急かすことなく待ってくれる。僕の頬に手を添えて、優しく撫でてくれる… 「……僕、その………き、キス……したい…」 ──ようやく言えたぁ。 言えてほっとしている僕の身体を、先輩はぐいっと上にずり上げた。 あっと思ったときには先輩の顔は目の前で……先輩は嬉しそうに笑うと「俺も」と言ってくれた。

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