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第42話
僕のおしりから顔を離すと、先輩は何度か太股を優しく撫でて……それから僕をひょいと下ろした。
え?止めちゃうの?
まだ二人ともイってないのに止めてしまう……これってどういう意味か……
僕がうまくできなかったからだ。
ちゃんと先輩を気持ちよくできなかったからだ。気持ちよくできないくせに、嫌がってばかりだったからだ。だから……だから…!
もう一度、もう一度やり直そうとしたそのとき…
「あっ」
先輩は上半身を起こすと、そのまま僕の身体をぎゅうっと抱きしめた。
「………ごめん、ちょっと暴走した……嫌がってたのに、ごめん」
聞こえてきたのは申し訳なさそうな先輩の声。
……違う。悪いのは先輩じゃなくて……うまくできない僕で…
だから首をふるふると横に振ると、先輩は困ったように息を一つ吐いて、さらにぎゅっと僕を抱きしめた。
「何でかな……お前のこと、べたべたに甘やかして、可愛がって、どろどろになるくらい気持ちよくしてやりてえのに……ちっともうまくいかない」
「……へ?」
「すぐ暴走して、わけわかんなくなって、自分のしたいことばっかりしちまうんだ……こんなんじゃ、嫌われても……捨てられても仕方ないって思ってんのになぁ…」
何だか心細げな寂しい声で先輩は「バカだな、俺…」とひとりごちた。
……ついさっきまで、僕が考えていたことと同じ。
嫌われちゃうかもって……捨てられちゃうかもって……そんなわけないのに、僕たち同じ不安を抱えてたんだ…
「どうしたらお前、ずっと側にいてくれんの?こんなかっこ悪くて情けなくて鈍感なやつと……いつまで一緒にいてくれんの?」
「先輩?」
「お前がいなくなったら、生きていけない……俺の前から消えないでくれよ……」
「……………」
──今日、僕は先輩と別れるつもりでここに来た。
僕のバッグの中には、この部屋の荷物を詰め込むための袋が入ってて……先輩が思ってるように、消えるつもりでいた。
先輩は自分のこと、鈍感だってよくいうけれど……もしかしたらちゃんと感じ取っていたのかもしれない。僕の浅はかな決心を……
「──消えない」
「……………」
「僕は消えたりしないよ……先輩が、望まない限りは」
先輩の胸を押して顔を上げると、ちゃんと目を見て伝える。僕の気持ちが届くように。
「──じゃあ、一生一緒だな。俺がそんなこと、望む日は来ないから」
先輩は見たこともない顔で……泣いてるような、困ったような、そんな顔で笑った。
それを見たら胸がぎゅっと苦しくなって、苦しくて苦しくて仕方がなくって……そっとそっと、先輩にキスをした。
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