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第48話

先輩の冷蔵庫は残念なくらいに何も入っていなかった。 全部確認してようやく見つけたのは、冷凍うどんとネギと卵。仕方がないから、今夜のメニューは月見うどん。 せっかく久しぶりに一緒にお風呂に入って仲良くできたのに、このメニューって……と思ったけれど、先輩は何だか嬉しそう。美味しそうにうどんをすすり、合間にこれまでのことを話しだした。 「4人で旅行に行く前にさ、俺、残業したの覚えてるか?」 「えーと……確か、誰かが失敗して、先輩がお手伝いをしたっていう…?」 「そうそう、それそれ……そのときにミスした奴ってのがさっきの『松野』って女。だからあいつはつまり、同僚な。同じ部署の後輩ってとこ」 「そうなんだ……じゃあ、助けてもらったから、先輩のことを好きになったんだね…」 困っているときに助けてくれた人――そんな人のことなら、必死で手に入れようとするのも分かる気がする…… 僕だって先輩との出会いは、迷子で半泣きのときだったし。 だけど先輩はちょっと苦笑して言った。 「そうだったなら、こんなにもめなかったな。何度も言うけど、あいつは俺のこと、好きじゃないから」 「え?だって……」 「俺さ、あの旅行のあと、月曜日も休んだだろ?その月曜日、松野と女子社員数人で昼を食べてるときにあいつの失敗の話題になったらしいんだよ」 「うん」 「『何でそんな失敗をしたんだ』から始まって『泣くのはずるい』だの『トラブルを解決するのに人の力を借りるな』だの…集中砲火にあったらしい。んで、その日俺が休んでるのは、急に残業をさせられたから体調を崩したんだ、って話になったみたいでさ」 「え……だって…」 あの日はごほうびみたいにもらったお休みが嬉しくて、二人で一日おしゃべりしたり……テレビを見たり……近所のスーパーに買い物に出かけたりと、休みをのん気に満喫したんだ。 だから体調を崩したって、そんなことはないのに…… 「まあ、俺も他のやつに月曜日は休みだなんて言わなかったからな。勝手に勘違いしたんだろ……で、ますます居心地の悪くなった松野は、思わず言ってしまったんだとさ……『俺とは秘密だけれど付き合ってるから、だから助けてくれるのは当たり前で、いいんだ』って」 「えっ?だって、そんなことは」 「ないよ。全くない。だけど、売り言葉に買い言葉で止まらなくなったってことだろ?……で、あいつは自分の言ったことを真実に変えるために奔走するようになったってわけ」 ……そう言うと先輩は、やれやれとため息をついた。

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