6 / 54

2

もう少し、で── 「こっち飲め」 ズイッ、 伸ばした手のひらに押しつけられる、山本のホット缶。 「………へ?」 「良かったね、夏生。確かコーヒー、好きだったよね」 屈託のない、満面な笑みを見せるさくら。 ゴーン…… 鉛のように固まった夏生が、鐘の音と共に打ち砕かれる。 「なぁ、さくら。お前の少しくれ」 「……うん。いいよ」 夏生に渡る筈だったミルクティーが、いとも簡単に山本の手に渡る。 「お、美味いな」 それをクイと飲んだ山本が、じっと見上げるさくらを見つめながら返せば…… 「……でしょ?」 缶を受け取りながら答え、照れたように俯く。 ゴーン…… 目の前で繰り広げられる、二人のいちゃつく光景。缶コーヒーを手に砕けた身体が砂と化し、サラサラと風に乗って散り去っていく。 コーヒーが嫌いだったら良かったと後悔しながらも、気を取り直して缶コーヒーを開けようとすれば…… 「──!!」 既に開いた飲み口。 そこから山本との間接キスが想像され、その場に崩れてエレエレと吐く。 ──ゴーン、 ざわざわざわ…… 参拝者達が騒ぎ出し、活気に溢れ、少しずつ列に動きが見え始める。 「……年、明けたな」 携帯を取り出した山本がそう呟けば、その向こうにちょこんと立つさくらが、ぱぁぁ~と花が咲いたような笑顔を見せる。 「あけまして、おめでとう!」 その笑顔が、自分にだけ向けられているような気がして。ようやく立ち直り、スッと背筋を伸ばす夏生。 「おぅ、おめでとう!」 感情の赴くまま、さくらに飛び付いて肩に腕を回す。 「──わっ、」 「今年もよろしくなっ、さくら」 驚いて逃げようとするさくらをグイと引き寄せ、逸らした顔を覗き込もうとしてはたと気付く。 ネックウォーマーからちらりと覗く、細い首筋に付けられた──赤い刻印。 「おい、杉浦」 夏生の背後に掛かる、大きな黒い影。と同時に響く、ボキボキボキ……と指を鳴らす音が。 「……俺も宜しく頼むわ」 ──!! ゴーン…… THE END

ともだちにシェアしよう!