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第6話
「要ちゃん、こんにちは。
今日のおすすめはなに?」
「永野さん、こんにちは。
今日は麻婆茄子がおすすめですね。
とろとろに出来たんですよ
あとおくらときゅうりの和え物。
味見してください。」
「あら、ありがとう。
要ちゃんは料理が上手ね。
ん、さっぱりして美味しい。
ごま油がまた良いわね。」
「ありがとうございます。」
要はすっかり顔馴染みになった御近所さんと世間話に花を咲かせる。
狭い田舎町でのコミュニケーションはこういう話が1番だ。
特に特売の話は助かっている。
「そうだ、うちの孫30過ぎても恋人もいないのよ。
心配よね」
「案外紹介してないだけでいるかもですよ」
和え物を容器に入れながら計量していく。
少し多目に入れようかともう1掬い。
残るより美味しく食べて貰いたい。
「良いお嫁さん貰って子供産んで幸せになって欲しいのよ。
それが幸せでしょ。
勿論、要ちゃんも。
可愛いお嫁さん貰って子供つくって、一緒にこのお店出来たら良いわね」
悪意のない言葉はよく突き刺さる。
平然と自分の正義で人を殴り気持ち良くなる。
まるでオナニーだ。
自分だけが気持ち良くなる。
それに、それは誰かの価値観で決して俺のものではない。
俺のしあわせを勝手に決めるな。
自分のしあわせを押し付けないでくれ。
俺のしあわせは…
「…そう、ですね」
……心
「要ちゃんなら安心なんだけどね」
目の前がグラグラしてきた。
踏み締めている床がふにゅふにゃとやわらかい。
「…要ちゃん?
ちょっと、顔色真っ青よ。
どうしたの」
考え過ぎた。
気持ち悪くて、吐きそうだ
「ご飯なんて良いから横になって。
田中さん呼びましょうか。
あそこなら往診してくれるから、ね」
「ね、ちゅうしょ、だと思います。
すみません」
やっと喉から出た言葉に老婦はでも…と言葉を続けたが、笑ってみせればスポーツドリンクを買ってくるから待っててと走っていった。
嘘を吐いて、ごめんなさい
だけど、言えないんです
要はその場に踞ると迫る吐き気を必死に耐えていた。
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