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第10話

また発作を起こした様だが、要の言う通り今は落ち着いている様に見える。 パニック、フラッシュバックと言った方が正しいのだが、そういう言葉を使い要の気負いになるのは避けたいので口にしない。 「要、今度来る時は連絡するから辛い麻婆豆腐作ってや。 あれ美味かった」 「うん。 分かった。 山椒とラー油沢山入れてやるよ」 麦茶を飲みながら会話を楽しんでいると、それを遮る様に鳴り響いたスマホの着信音。 その画面には、直の文字。 「あ、ちょっと悪い…」 心はスマホを手に、窓へと近付く。 カーテンの横に日焼けしないよう、子供達が描いてくれた要の絵が飾ってあるのを横目に見ながら画面をタップした。 「もしもし」 『まだ帰って来ないのか』 「あぁ…、そろそろ帰るわ」 『…あの人の所か』 「飯食い来ただけや」 『近くもないのに?』 「何が言いたいんや。 俺が、浮気してるっつうんか」 『……』 溜め息を飲み込む。 直は嫉妬しいやった。 前に、一番長く付き合ってた期間を聞かれ答えてからこれや。 付き合いたての頃はこんなじゃなかった。 言ったのはまずかったのかもしれない。 通話口の向こうからなにやら早口で言っているが、理解したくない。 元気いっぱいに描かれた絵には不似合いな自分を痛感する。 なんで、こうなったんやっけ… 『心、俺の事愛してるなら愛してるって言ってくれよ』 「……愛しとうよ」 わざと言わす。 要に聞こえる様に。 恋人通り越して家族みたいになっていた要に嫉妬をしながらも、俺を信じてないとは言えずこうして自尊心を守る。 嫌な防御方だ。 だけど、それを言う俺も俺。 要の方を向けない。 窓に映る要を見られない。 穏やかなこの町に似合わない感情が沸き上がる。 なんで、こんな事になったのだろうか。 ……あぁ、自分で蒔いた種か。 やっと落ち着いた直はぽつり、ごめんと言た。 「じゃ、切るで。 帰ったらな」 謝るくらいなら……、なんて最低な言葉を飲み込んだ。

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