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第18話
Side響也
『…………大丈夫か?』
そう声をかけると、真っ黒の瞳がようやく俺をうつした
パクパクと口を動かしたので、お礼を言われるのかと思い、女の口に耳を寄せた
すると……女が発したのはお礼ではなく……………
『…………どうして…………』
という、疑問だった………………
彼女は救った俺に向かって、どうして助けたんだ、と聞いてきた
そう聞かれ、返答に困った…………
………………どうしてなんだろうな……
俺も……全く自分自身の気持ちがわからなかった……
だが…………誘拐されていきそうなこいつをみて……心がざわついて……どうしても自分のものにしたかったことだけは、確かだった
その疑問に答えない俺を不思議そうにみてくるそいつに、俺は家まで送る、と言った
だが、大丈夫だと断られた
『大丈夫って…………大丈夫じゃないだろ?
家族とか…………』
『大丈夫だよ、ほんとに
僕……家も家族も、無いから…………』
その返答にぎょっとした…………
そこから詳しく話を聞くと、彼女…………いや……彼、尚は家族は一人もいなくて、家もなく、ホテル暮らしだったと言っていた
『だが、行き先がないのも困るだろ?』
『……でも、今の時代、家を探しても
誘拐現場になるのを嫌がって、誰も日本人に家を貸してくれないよ?』
その返答に、さらにギョッとした
そうか…………日本人の家は犯罪者に狙われやすい
だから、家を貸して、そこが犯罪現場になるのをみんな嫌がるんだな…………
と、納得したと同時に、目の前にいるこの男がとても可哀想にみえた………………
『…………じゃあ、俺んち来るか?』
『…………え?』
『俺、とらだからさ
誰も怖がって俺の家に入ろうとしねぇよ
ダチ以外な』
『い、いいの?』
『……おう!』
俺の家にこい……といった俺の顔を、本当にいいのか、と疑いながらのぞき込む彼…………
そんな彼を見ながら、俺は……こんな状況なのに、幸せに思った………………
だって…………ようやく彼の瞳に、俺の姿を捉えることが出来たから………………
彼の瞳に俺が写ったことを喜ぶ俺は、もう犬だったら尻尾をブンブン振っていたことだろう
そのくらい……本当に嬉しかった…………
『ここのへや、使っていいから』
『あ、えっと……ありがと…………』
『……うん、じゃあ後でまた来る』
『…………うん』
幸い、俺の家は数部屋空いていたので、彼をそこで匿った
彼はなんども、人部屋使っていいのかと聞いてきたが、出ていかれるのが怖かった俺は
使ってくれて嬉しい……と意地の悪い返しをして、使わざるを得ない状況を作った
彼は困惑していたようだったが、俺はこの家に彼がいるだけですごく嬉しかった
家が空いていてよかった……と彼を見えないところで全力でガッツポーズをした
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