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第3話
「すげー綺麗な部屋ですね」
キョロキョロ辺りを見渡しながら口を開くと、及川さんは困ったように笑った。
「元カノ達にあげたんだ。ちょっと色々あってね……
別れる時に思い出に、俺の私物が欲しいとか言われてね。
一人にあげたら噂が広まっちゃって、次から次へと欲しがられてね。
モテる男は大変なんだよ~。
置物とか、漫画とかならまだ良いけど、靴とかを持って帰った子もいてね~」
モテるって本当に大変だよ~と笑いながら言われても、全然笑える話じゃない。
本当にほとんど物がなくて、殺風景だ。
最初がどんな部屋だったか知らないが、こんなに物がないなんて、どんだけ沢山の人達と付き合ってたんだ……
胸がモヤモヤして、無意識に眉間のシワが寄る。
そして、もう1つ疑問がうまれた。
「……どうして、別れたんすか?」
俺の質問に眉を下げて、明らかに困り顔をする及川さん。
そんな困ったような顔するなんて……別れたくない人がいたんだろうな……
酷いことを聞いてしまった
及川さんは1つ短いため息を吐いて、キッチンの方へと歩き出した。
「そう言えばトビオちゃん、お腹すいてたんだよね?」
「え? あ、はい」
あ……はぐらかされた……
でも良かった。及川さんに辛いこと思い出してほしくないし。
聞いたこと、後悔してたから……
「昨日カレー作ったんだ。食べる?」
「えっ!!
カレーですか!? 食べます食べます!
カレーは1日ねかせてた方が、もっと美味しくなるんですよね!」
「そーだね。まぁ、及川さんのカレーはねかさなくても美味しいけどね」
「俺カレー大好きです! あざっす!!」
及川さんが作ったカレーを食べれる嬉しさで、思わず顔がにやけてしまう。
そんな俺を見て及川さんも本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。
「トビオちゃ~ん、ハイどーぞ!」
「あざっす!!」
及川さんがカレーを温めて、俺の前に差し出してくれる。
美味しそうな匂いの湯気が俺を包み込んで、早く食べろ~食べろ~と急かしているようだ。
すげーいい匂い……
うまそー、よだれが出そうになる。
「アハハ。よだれが出てるよトビオちゃん。
ほんとカレー好きなんだね」
「……ス」
まさか本当に出てたのか。でもこれは仕方ないことなのだ。
だって、こんなに旨そうな匂いで俺を誘惑するから、よだれが出ない方が可笑しい。
「ほら、早く食べなよ」
「い、いただきます!」
及川さに進められ、俺は慌ててカレーを口に含んだ。
あーーやベー、マジ旨い!
及川さん料理上手だな!
口角が上がっていくのを感じながら夢中で咀嚼していると、及川さんがニヤニヤしながらこちらを見つめていた。
「何ニヤニヤしてるんすか?」
「ちょっと、ニヤニヤじゃなくてニコニコって言ってよ!」
「じゃあ、なんでニコニコしてるんすか?」
どっちも一緒だろ。
何て思いながら、相手は年上でカレーを食べさせてもらっている立場だ、あんまり逆らわないようにしよう。
俺の質問に及川さんは、更に満面の笑みを浮かべた。
「中学の時にお前が目をキラキラさせながら、カレーパンをものすんごい幸せそうな顔して食べてたの思い出してさ。
本当にカレー好きなんだなって……」
「俺、そんな幸せそうな顔してたんすか?」
それを及川さんに見られてたとか……恥ずかしすぎる。
「してたしてた! すんごい幸せそーだった!
またあの顔見たいって思ってたから、見られて嬉しくて、思わずニコニコしちゃったんだろーね」
「か、顔見たかったって! 何言ってんすか!?
つーか、ぜってー変な顔だったでしょ?」
「いや、すごい可愛かったよ」
「かっ! ぐっふぅっっ、ゲホッゴホッゲホッ!!」
「ふふふ、照れてる。本当に可愛いね飛雄は。
今も変わらず……」
男に可愛いなんて恥ずかしいこと言うから、びっくりして噎せてしまった。
てゆーか、及川さんに可愛いとか言われたら……男には似合わない恥ずかしい言葉なのに、嬉しさが込み上がってくる。
「飛雄に喜んでほしくて、あの顔を思い浮かべながら作ったから、愛情がいっぱいこもってるんだよ!
だから、今まで食べたどんなカレーよりも一番美味しいでしょ?」
「なっ!?」
俺に喜んでほしくて? 俺の顔を思い浮かべながら? 愛情がこもってる?
何言ってんだこの人!?
じゃあ、このカレーは俺のために作ったって言うのか?
そんなはずはない! だって俺は、及川さんに嫌われてるから……
この及川さんは変だ! 及川さんがこんなに俺に優しいわけない
何故こんなこと俺に言うのか分からないけど……
きっと、沢山の女達に笑顔が可愛いとか、愛情をこめて作ったんだとか言って料理を振る舞ってきたんだろうな……
「何……変なこと言ってんすか?
今までの彼女とかにもそーやって変なこと言ってたんだろあんた。
俺は男だからそんなこと言われても、嬉しくもなんともないっすよ」
なんか言ってて虚しくなって、態とバカにするように鼻で笑ってやった。
すると、今までニヤニヤ笑ってたのに、突然真面目な顔をして、俺を真っ直ぐ見つめてきた。
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