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第4話
真剣な眼差しに胸がドキドキと高鳴ってきた。
本当にこの人はとても整った顔立ちで、目が離せなくなる。
及川さんは目を逸らさずに真剣な顔つきのまま立ち上がって、こちらにゆっくり近づいてきた。
「えっと……どうしたんすか?」
「他の女の子達とお前は違うよ」
「ど、どういう意味ですか?」
徐々に近づいてきた及川さんから目が逸らせず、二人は見つめ合う形になった。
「さっき、なんで元カノ達と別れたか聞いたよね?
どーしてか、本気で知りたい?」
「…………」
その問い掛けに何故か俺は、口を動かすことが出来なかった。
及川さんから醸し出される威圧的な空気が、真剣な熱い瞳が、俺を縛りつけている。
「教えてあげる。
だから、飛雄……動かないで」
そう言って及川さんは俺の頬を両手で包み込んできて、ゆっくりと顔を近づけてくる。
なんだ? 及川さん、何するつもりだ?
そして、次の瞬間
「っっ!?」
二人の唇が重なりあっていた。
ど う し て?
なに……こ…れ?
唇に触れるこの温かい感触を前に、俺はただ目を泳がすことしか出来ない。
俺、及川さんにキスされてる?
なんで?
困惑して、どうしたらいいか分からず微動も出来ない俺に、及川さんはどう思ったのか、ニヤリと口角を上げて怪しい笑みを浮かべた。
グッと頬を包み込んでいた両手に力を入れて、俺の唇を開かせてくる。
「んぁッ!」
そして、口内へと忍び込んでくる生温くてやわらかな感触に、俺の身体がカッと熱くなった。
や、やめ……
歯列をなぞられ、口腔を舐め回される。
「ふ……んんぅ……ん、ふぁ…んぅ……」
何度も舌先が触れ合う度、ぞくぞくとした震えが背筋をかけ上がった。
舌をからめ捕られ、きつく吸い上げられる。
「……んふぁぁ…」
及川さんはキスがめちゃくちゃ上手くて、すごく気持ちいい。
気持ちいい、すげー気持ちいいけど、流されちゃ駄目だ!
このままじゃあ俺、本当に本気でやべぇよ!
「んん……んんぅん、ふ、ぅ、らめ、ん、や、止めろボゲェーーーー!!!!」
俺は、渾身の力を込めて、思いっきり及川さんを突き飛ばした。
大きな音をたてて、派手に後ろの方へ倒れた及川さんを、俺は肩で息をしながら見下ろす。
「ハア、ハアハア、ハア、ハア」
「イッツぅーーーー……」
顔を歪めて背中を擦る及川さんに罪悪感を感じながら、俺は口端に垂れた唾液を無造作に拭った。
「なんで、こんなことしたんですか?」
「…………」
問い掛けに答えずただ俯いて微動もしない及川さんに、小さなため息を吐くしかなかった。
何聞いてんだ俺……。
わざわざそんなこと聞かなくても、答えはもう分かりきってる事じゃないか。
……嫌がらせだ。
俺はこの人に嫌われている。
俺が近付くとこの人はいつも、眉間にシワを寄せて顔を歪めていた。
他の人には笑顔なのに、俺に見せるのはいつもしかめっ面。
嫌われてる。分かってたよそんなこと。
それでも、今日の及川さんは優しかったから、変だなと思いながらも、喜んでた自分がいた。
本当にバカだな俺。
「俺、帰ります。ごちそうさまでした」
未だに俯いて顔を見せない及川さんの姿に、俺はもう一度ため息を吐いて、部屋を後にしようとした。
「…………てよ……」
聞き取れない小さな声で及川さんが何か呟いた。
構わず歩を進める。
「……って…………よ…… 待って、よ……待てよ飛雄!!」
及川さんの強声が耳に届いたと分かった時にはもう、俺は、床に押し倒されていた。
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