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第5話

「うあっっ!! いってぇーー…… ちょ、おいかっ……」 突然押し倒されたことに顔をしかめながらも、文句を言おうとした俺の唇は  再び塞がれていた。 「ちょ、むうぅ…おいかぁさ……んぅ!」 必死に首を振りキスから逃れようとするが、すごい力で押さえ込まれ、少し放れてもまた直ぐに塞がれる。 すげー力、苦しい! 痛くなるほど唇を押し付けられ、上手く息が吸えない。 乱暴に口内を掻き回す舌を押し出そうとするけれど、逆にからめ捕られて吸い上げられた。 「んくぅうう……」 苦しくて、混ざり合う唾液を飲み込む事が出来ず、頬を伝う温かい感触がやけに生々しい。 荒々しく口内を掻き回され、息苦しさに意識が朦朧としてきた時、やっと唇が解放された。 「ハア、ハア…ハア……ハアハア、んで、こんな……」 「飛雄、飛雄……飛雄」 何度も名前を呼んでくる及川さんの顔を見ると、その瞳は獣のように鋭く、真っ直ぐにこちらを見据えていた。 その恐ろしい眼光を前に俺は、背筋に悪寒を感じて、思わずごくりと唾を飲み込んだ。 なんでそんな目で見るんだよ? 「……飛雄」 怯んで動けない俺の名前をもう一度呼んだ及川さんが、下の方へと手を伸ばした。 ギュッと強くズボンの上から股間を掴まれて、俺はたまらず悲鳴をあげた。 「ひうああぁっっ!」 力強くあそこを揉み込まれ、身体中が熱くなっていく。 俺は必死に及川さんの手を掴み、止めさせようとするが、力が強すぎてびくともしない。 なんでそんなとこ触るんだよ。 嫌だ! おかしくなる! 「あうんん……い、ヤダ……やめ、止めて……おい、か…わさ、ん……やめ、や、うあ、うあぁ、止めて、下さいっ」 止めてと言えば言うほど及川さんは、反対に強く揉み込んでくる。 本当におかしくなる! 止めて! こんなのいやだ! 涙が滲んできて、視界がぼやける。 なんで、こんなことするんだ。 俺は、こんなにも及川さんに…… どんどん涙が零れ落ちていく。 イヤだ、イヤだ、イヤだイヤだイヤだ、イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだぁーーーー!! 「いやだ! 止めろ、及川さんっ!!」 パンっ! 「ッ!」 俺は思いっきり及川さんの頬をひっぱたいた。 動きの止まった及川さんの腕の中から必死にもがいて抜け出して、俺は部屋を飛び出した。 ……情けねぇ。 次から次へと零れ落ちる涙を止める事が出来ず、俺は必死に痛くなるほど目を擦りながら、がむしゃらに走った。 あんなにも俺は、及川さんに嫌われていたなんて。 分かっていたけど、実際に突き付けられると、 辛くて悲しくて、どうしようもなくなった。 俺はずっと、及川さんを尊敬してた。 憧れていた。 及川さんは、俺が出会ったどんな人よりもバレーが上手くて、主将で、キラキラしていて…… 岩泉さんは、及川さんのことグズだとか、どーしようもない奴だとかいつも言ってバカにしてたけど、本当はすごく頼りにしてて、慕っていたんだと思う。 他の人達も。 及川さんの回りにはいつも人がいっぱいいて、皆笑顔で、及川さんも楽しそうで。 でも、俺の回りには誰もいなかった。 だから、人気者な及川さんのことすごい羨ましかった。 あんな人になりたいとか、いつも思ってた。 あの人の傍にいれば、俺も少しはあんな風になれるんじゃないかな、なんて…… そんなこと考えながら、本当は、あんな風になりたいんじゃなくて、 ただ、キラキラ輝いている及川さんの傍にいたかっただけ…… 及川さんはいつも笑顔で、他の人達には優しいのに俺にはいつも冷たくて。 『飛雄のバーカバーカ! こっちくんな! べーー!』 なんて酷いこと沢山言われてきて、俺はやっぱり嫌われてるんだな。 分かってた、嫌われてるって。 他の奴には優しいのに、俺にだけ…… 分かってる、分かってたよ。 分かりたくなかったけど。 今日の事でハッキリした。 俺は、本当に……本気で 及川さんに嫌われていたんだな…………

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