9 / 344

第8話

及川side 「岩ちゃん、俺……飛雄を襲っちゃった」 青城の学食にて、俺と岩ちゃんは昼ご飯を食べていた。 岩ちゃんはネギうどん、俺はいつも通り牛乳パンを頬張っていた。 今日の午前中の授業……全っ然集中できなかった!! 頭の中は飛雄のことでいっぱい 昨日のカレー食べてる時の飛雄可愛かったなぁ~~ とか、 飛雄の唇柔らかかったなぁ~~ とか、 嫌だとか言いながら飛雄、俺とキスしてる時、気持ち良さそうだったなぁ~~ なんて授業中に考えてたら、勃ちそうになった…… 勃ちそう……に……じゃな・く・て! 俺はなんて最低なことをしてしまったんだぁーーーー!! ただただ、飛雄と一緒に居たかった、久しぶりに間近で見る飛雄は可愛くて、一緒に下らない話なんかが出来るだけで それだけで良かったのに…… 俺は我慢出来なかった。 飛雄の涙、あんな顔見たくなかった。 本当に最低だった。 自己嫌悪に陥って、頭の中がグチャグチャになって、でもどうしたらいいかもう分からなくなって…… 俺は一番信頼出来る大親友の岩ちゃんに助けを求めようと、相談することにした。 岩ちゃんは俺の言葉を聞いて、啜っていたうどんをブブーーーーっと豪快に吐き出した。 「な、ななな、な、な、何言ってんだくそ川ぁぁぁぁ!!」 「うわっ! もお~~岩ちゃん汚いよぉ!」 「テメーが突然変なこと言うからだろボゲェ!」 「おばちゃーん、なんか拭くもの下さーい!」 学食のおばちゃんにタオルをもらって、岩ちゃんが飛ばしたうどんを拭き取る。 「なんかお前、一人暮らし始めてから女子力アップしたな」 「うるさいよ……いーんだよ。 飛雄がバレー以外何にも出来ないから、俺がこういうこと出来た方がいいでしょ。 結構料理の腕も上がったんだよ。 昨日飛雄、俺が作ったカレー食べてくれたんだよ! すごい美味しそうに食べてくれてね、可愛かったなぁ~」 カレーを食べてる時の飛雄の、嬉しそうな顔を思い出しただけで、無意識に口角が上がる。 そんな俺を見て岩ちゃんが、驚いたように目を見開いた。 なんだよその目は? 「お、お前らいつの間に付き合いだしたんだ?」 「へ?」 岩ちゃんの言葉で頭上に、沢山のクエスチョンマークが浮かぶ。 俺の反応に岩ちゃんは眉間に深いシワを寄せた。 まあ、いつも眉間にシワ寄せてるけどね。 そんなにしてるとあとがついちゃって、戻らなくなるぞ☆ 「いや、お前の料理を影山が食べたとか言うから……てっきりもう付き合いだしたのかと思った」 「…………」 「つーか、お前やっと影山に告白したんだな」 「……岩ちゃん、俺が飛雄のこと好きって知ってたんだ」 別に隠してた訳じゃあ無いけど、知られていたことに少し恥ずかしくなった。 さすが岩ちゃん、鋭いな。 俺が俯くと、岩ちゃんはフンッと鼻で笑った。  「いや、バレバレだろ。 お前の気持ちに気づいてなかったの影山ぐらいで、金田一までもがお前が影山を好きなの知ってたからな」 「ま、マジで!? てゆーか、一番気付いてほしい相手が気付いてないって……なんなの」 「まあ、影山だからな。 そんで影山に告白して、まさかフラれたのか? で、ショックのあまり思わず襲っちまった? ……………… て、テメーっ!」 持っていた箸を乱暴に置いて、恐ろしい顔で勢い良く立ち上がった岩ちゃん。 それに俺も立ち上がって、慌てて宥める。 「は、ハーイ岩ちゃん、落ち着いて、落ち着いて! 座ろう、ねっ、座ろう!」 岩ちゃんは今もなお眉間にくっきりとシワを寄せ、思いっきり口を歪ませたまま、取り敢えず座ってくれる。 一つ安堵のため息を吐いてから、俺も椅子に座った。 昨日のことを説明しようとしたら、また飛雄の泣き顔を思い出して、胸がズキズキと痛み出した。 「俺……その……飛雄を襲っ、ちゃって…………でも、告白は、その……してない」 飛雄に告白………… そんなこと出来ない。 俺は男で飛雄も男。 この恋は叶ってはいけない恋…… 告白なんてしたら飛雄を困らせてしまう。 中学の頃からずっと好きだったけど、この気持ちを抑え込んできた。 駄目だ、飛雄を欲しいなんて思っちゃあいけない。 この気持ちを消さないと…… そう、ずっと必死に消そうと思ってたけど……出来なかった。 それでも、好きで…… でも気持ちは伝えられなくて ならせめて、友達? そんな関係じゃあ満足出来ないけど…… でも、でも、傍にいることだけ それだけでいいから、許してほしかった…… それだけで良かったのに…… 俺は…… 「好きすぎて、我慢…… 出来なかったんだ」

ともだちにシェアしよう!