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第11話
まるで競歩するかように進む俺の後ろを、ぴったりと離れず付いてくる日向。
無言で肩で息をしながら体育館に戻って、バレーボールを手に持つと、日向がいつもと違う静かな声でお決まりのセリフを言ってきた。
「影山、トスくれよ」
「……おぉ…」
いつも嬉しそうに本当に欲しそうな笑顔で言われる言葉が、今は違う別の物を求めるように、少し低い声で発せられる。
似合わねー声だしてんじゃねぇよボケ。
目が赤かった理由、それは及川さんに本気で嫌われていると再確認させられたから……
そんなこと、言えるわけない。
それでも日向は、俺がちゃんと教えてくれるのを待っている。
心配してくれてるの分かってる。
俺だって日向がいつもと様子が違ったら、しつこくそのわけを問いただすだろう。
大切な仲間だから、力になりたい。
お前もそう思ってくれてるんだろ?
その事をすごく嬉しく思う。
けど、それでもやっぱり言えねーよ……
しばらく俺は、ひたすら日向にトスを上げ続けた。
最初は打ちやすいところに、だんだんわざと遠くに上げたり、バックトスしたり。
それを全て落とすことなく、キレイにスパイクを決めていく。
どんなに打ちにくいトスも、ちゃんと決めてくれる日向。
セッターとしては、これほど嬉しいことはない。
いつもだったら嬉しくなって恥ずかしいと思いながらも、『ナイス日向!』って誉めてやるのに。
そしたら日向も同じように嬉しそうな顔で、『ヘヘーン』って得意気に笑ってくれるのに、でも今日は……
「…………」
「…………」
二人ともずっと無言で……
待ってるんだ、俺があのことを教えてくれるのを。
でも俺は、言えない。
カゴの中のボールがそろそろ無くなってきて、俺はふぅーっと長いため息を吐きながら口を開いた。
「じゃあ、ラスト1本!」
最後は日向が1番打ちやすいトスを上げる。
だけど、
日向はそれを打つことなく、何故かキャッチした。
「なんだよ? スパイク決めろよ」
「…………」
「日向?」
ボールを持ったまま真っ直ぐこちらを見つめて、何も言わない日向に、俺は怪訝顔でゆっくりと近付いた。
「どーしたんだよ?」
「まだ目、少し赤い?」
そう言って手を伸ばして、俺の目尻にそっと触れてきた。
唐突に触れてきた感触にビックリしてしまった俺は、思わず日向の手を払い除けてしまった。
「な、なんだよ!? 触んな!」
すると日向は突然顔を歪めて、俺の腕を力強く掴んできた。
「逃げんな影山!」
掴まれた腕が少し痛いけど、日向の真っ直ぐな瞳に何も言えなくなってしまった。
「やっぱり理由教えてくんねーの?」
「ワリィ……」
「誰にでも言いたくないこと、言えないことは沢山あると思う。
俺だってお前にまだ言えてないことあるし……
それでもさ、俺がどれだけお前のこと本気で心配してるか分かってる?」
真っ直ぐこちらに向けられた瞳が、少し潤んで揺れた気がした。
そんな瞳を前に、俺はどう返事を返していいか分からなくなって、日向の言葉をおうむ返しするしかなかった。
「本気で心配されてることは分かってる……」
「分かってねーよ」
「分かってるって」
「影山、お前全然分かってない……
俺がお前のこと、どれだけ……」
腕を掴んでいた手が、二の腕、首へと滑り、両手で頬を包み込んでくる。
その熱い手の感触と潤んだ瞳に、どうすることも出来なくて、ただただ目を泳がす。
「影山……ちゃんと俺を見てよ」
「ひ、なた?」
「影山」
日向が俺の名前を呼んだその時、ガラガラガラと体育館の扉が開いた。
「ッッ!!」
「ひょわっ!!」
慌てて日向が頬から手を離して、俺の傍から飛び退いた。
「お前らまだ残ってたのか? 早く帰りなさい!」
体育館の中に入ってきたのは、戸締まり担当だろか?
一人のじいさん教師が眉間にシワを寄せながら、俺達を睨んできた。
「……ウス」
「ハイ、すみません……」
体育館から追い出されて、鍵を閉められる。
日向はあの時、何を言おうとしたんだろう?
今は無言で部室に戻り、着替えている。
き、気まずい……
「影山、その、さっきはゴメン……
とにかく、俺は本気でお前のこと心配してるってことだけは覚えといて」
「分かった……ありがと、な」
それだけ言って後はまた無言で、着替え終わって
俺達は部室を後にした。
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