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第12話

俯きながら校門までの道を二人で歩く。 いつもうるさい日向が、一言もしゃべらないことに居心地の悪さを感じながら、もう一つの不安事へと近付いてるのも確かで。 及川さん、もう帰ったかな? まだ居たらどうしよう…… 今は日向と一緒だし、この状態で及川さんと会って、平常心を保てる自信がない。 頼む! 及川さん、もう帰ってて下さい! これ以上俺はもう…… 俺の不安を余所に、確実に校門へと近付いていく。 そして、 「飛雄……」 「あれ? 大王様?」 聞きたくないと思っていたあの声が、俺の名前を呼んできた。 やっぱりまだ居たのか。 いつまでも待ってるって書いてあったもんな…… 「なんで大王様がここに? こんな遅くに、今日はどーしたんですか?」 日向が不思議そうに首を傾げる。 「ちょっと飛雄と話したくて、待ってたんだ」 「影山と?」 「うん。 飛雄、大事な話があるんだ。 ちょっと一緒に来てくれない?」 及川さんは笑顔で日向と話した後、表情をガラリと変えて、俺へと手を差し伸べてきた。 その目があまりにも真剣で鋭く、俺は恐怖を感じて思わず後退りをしてしまう。 「あ、俺は……あんたと……話すこと、なんて…ない」 ついて行ったらまた昨日と同じ、酷い事をされるかもしれない。 俺は背中にびっしりと嫌な汗をかいていた。 「ゴメン飛雄……お前になくても俺にはあるんだ。 お願い……一緒に来て」 そう言ってゆっくりと近付いて、俺の腕を掴もうとしてきた。 嫌だ……来るな……俺はもうあんたとは…… 情けない、また涙が 「飛雄」 腕を掴まれた瞬間、色々な感情が溢れてきて苦しくなり、俺は思わず及川さんの手を強く思いっきり払い除けた。 「嫌だ! 触るな!!」 素早く及川さんから離れ、無意識に日向の後ろに隠れてしまった。 日向を盾にするなんて情けない。 そうは思っても、どうしても及川さんから逃れたかった。 「か、影山!?」 俺の行動に日向が大きく目を見開いて、困惑している。 いつも強気で怒鳴ってばかりのやつが、自分を盾にして逃げるなんて、ビックリしない方がおかしいよな。 本当に情けない。 「飛雄、逃げないで。 どうしても聞いてほしい大切な話があるんだ。 だからお願い、一緒に来て……」 「……帰って下さい。 俺はあんたと話したくないんです」 及川さんの声が少し震えているように聞こえた。 なんでそんな声出すんだよ…… あんたは俺の事が嫌いで、だから昨日あんな酷いことしたんだろ。 あんなことしといて、なんでそんな弱々しい声出すんだよ。 意味わかんねぇ。 「飛雄頼むよ! 今日だけでいい、どうしても聞いてほしいことがあるんだ!! 嫌なんだ、こんな最悪な状態で終わるなんて」 最悪な状態ってなんだよ? 最悪なのはあんただろ。 これ以上、俺を苦しめないでくれ! 「嫌です! 帰って下さい!!」 声を張り上げて、ぎゅっと目をつぶった。 「飛雄……ゴメンね」 及川さんには似合わない弱くて消え入りそうな声に、恐る恐る目を開けた。 「昨日は俺、本当に最低だったね……ゴメン。 飛雄を傷付けてしまったけど、それでも昨日はお前と一緒にいられて本当に楽しくて、嬉しかったよ。 こんな最悪な形になっちゃったけど、最後に飛雄の声が聞けて良かった! 本当にありがとう……」 あの及川さんが、とても悲しそうな顔で苦しそうな声を出すなんて。 いつも勝ち誇ったように自信満々な顔をしていた及川さんが、 俺に嫌みを言って、うざったそうに顔をしかめていた及川さんが、 あんな悲しそうな顔をするなんて…… 信じられない。 「飛雄、ゴメンね……さようなら」 「及川さ……ん……」 泣いてた? 及川さんは、小さく切なそうにそう言ってから、俺に背を向けた。

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