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第13話

悲しそうで苦しそうに…… あんな顔、今まで見たことない。 俺が及川さんに、あんな顔をさせてしまったのか? 他の人に見せるのはいつも笑顔で、 俺には苦しそうな顔? ふざけんなよ なんであんたは…… そんなに俺が嫌いなのか…… 及川さんの姿が見えなくなるまで、ただ呆然と立ち尽くす。 「あの大王様が、泣いてた……」 一緒に黙って傍にいた日向が、呟くように口を開いた。 その言葉で、昨日あった事や、中学の時の及川さんの意地悪な顔、そしてさっきの苦しそうな顔全てが入り交ぜられて頭の中を埋め尽くした。 「及川さん……」 「大王様、昨日って言ってたな。 影山の目が赤かったのって、昨日大王様と何かあったからだったの?」 「…………」 何も言えない俺に日向はどう思ったのか分からないが、何故か頭を撫でてきた。 温かい感触に首を傾げる。 「……?」 「昨日二人に何があったか知らねーけど 目が赤かったのは、大王様と何かあって泣いたからなんだろ? 今日のお前はすごく辛そうで、見てるこっちまで辛くなった」 「ごめん」 他に言う事が思い付かなくて、ただ謝る言葉しか出てこなかった。 そんな俺に日向はハハと小さく声を出して笑った。 なんで笑うんだよ? 今笑うところか? 不思議に思いながらちゃんと日向の顔を見ると、今度は日向が悲しそうな顔をしていた。 あの笑いは楽しさとかじゃなく、悲しみ。 なんで……お前までそんな顔するんだよ? 俺に関わる人皆が、苦しそうで悲しそうな顔をする。 なんで? そんな顔見たくないのに…… 皆に笑っててほしい。笑顔が見たい。 「お前に辛そうな顔してほしくない。 大王様も悲しそうだったけど、そんなの知らねぇ。 俺はお前が大事なんだ。 お前を傷付けた大王様のこと許せねぇ! もう、大王様に近付くなよ!!」 そう声を張り上げた日向は、俺を優しく抱きしめた。 すごくビックリしたけど、放れようとは思えなかった。 それよりも日向が『大事』って言ってくれたのが嬉しくて。 お前は俺の大切な相棒だ。 日向も俺のことそう思ってくれてるんだろ? だからあんなに心配してくれて、大事だって思ってくれるんだろ。 ずっと中学の時はひとりぼっちで、心から大切だと思える仲間なんていなかった。 でも今は、日向がいる。 俺のために悲しそうな顔をしてくれて、心配して声も張り上げてくれる。 その事がすごく嬉しい。 「心配してくれてありがとな日向。 俺もお前が大事だ」 今日初めて笑って見せると、日向も嬉しそうに微笑んでくれた。 「お前も大事って言ってくれてスゲー嬉しい! けどたぶん、俺の大事とお前の大事は意味が違うと思…………げっ……」 日向が言葉を止めて変な声を出して、ある方向を見たから、俺もその方向を見ると…… そこには、いかにもサラリーマン~って言うようなスーツ姿のオッサンが立っていて、 こっちを不審者でも見るような目で凝視していた。 あ、やべー……俺今、日向に抱きしめられてたんだった…… そっと離れて、日向に背を向ける。 日向も俺から少し離れた。 オッサンは何回もこちらをチラチラ見ながら去って行った。 「日向……もう遅いし、帰るぞ」 「そ、そうだな…… あ~あ……体育館の時といい、今といい、なんで邪魔が入るかなぁ~……」 「あ? なんだ?」 「いや、今そんな雰囲気じゃないし…… なんでもねぇ……」 長いため息を吐きながら日向が、フラフラと歩き出す。 それに首を傾げながら、俺も帰路につくため歩き出した。 日向に抱きしめられたり、オッサンに見られたり、ハプニング続きだった。けど、 それでも頭の中の大半を埋め尽くすのは、さっきの及川さんの苦しそうな顔だった。 なんで、あんな苦しそうな顔するんだよ。 及川さんの大事な話ってなんだったんだろう……

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