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第19話
しばらく二人で赤面のままその場で佇んでいたが、及川さんがはにかみながら取り敢えず入ろっか、と言って部屋にあげてくれた。
当たり前だけど、あの時と全然変わってないな。
なんて考えながら、カレーを食べた時と同じ椅子に座った。
「トビオちゃ~ん牛乳でいい?」
「普通お茶とかコーヒーじゃないんすか?」
「牛乳でもいいでしょ! 文句があるなら、飛雄は水にするよ」
「いや、もちろん牛乳で良いっす」
牛乳とか及川さんらしいな、と思いながら笑っていると、ドンッとわざとらしい音をたてて目の前に牛乳の入ったコップが置かれた。
「ハイどーぞ~……」
「……あざっす……」
しばらく二人で沈黙のまま牛乳を飲む。
なんか気まずいな……
あっ、そうだ。
話すことが思い付かない今が丁度良いんじゃないか?
及川さんの本当の気持ちを知った上で、俺が一番聞きたかった事があった。
それを今、思いきって聞いてみようと思った。
「及川さんは、俺のことずっと好きだったんですよね?
だったらなんで、いつもしかめっ面とかして、サーブとか何にも教えてくれなかったんすか?」
「そ、それは……」
中学の最初の頃は優しかった。
でもいつからか、意地悪な顔をしたり、睨んできたりすることが多くなって。
そんな及川さんの顔を思い浮かべながら質問すると、及川さんは顔を赤くしながら目を逸らした。
俺のこと好きなら、もう少し優しくしてくれてもいいのに。
意地悪な顔だけじゃない、
及川さんは俺の顔を見ると、困ったような悲しそうな表情をしたりする時もあって。
だから俺は、及川さんに完全に嫌われていると思っていたんだ。
俺の質問に及川さんは顔を真っ赤にして狼狽えながらも、おずおずと答えてくれた。
「ずっと中学の時から好きだったよ。それは本当。
本当なんだけど……あの時の俺はガキだった。
ほんとクソガキだったんだ」
「え……?」
「お前一年の中……いや二年よりもずば抜けてバレー上手かっただろ?
下手したら三年よりも上手くて……
同じセッターってこともあったし、スタメンを奪われたらどうしようとか、考えてた時があって……
負けたくないって、敵視してたんだ」
及川さんの言葉に驚いて、思わず目を見開いた。
「え……そ、そんな、先輩より上手いとか!
それに及川さんからスタメンを奪うなんて、到底無理でしたよ!
俺、及川さんみたいになりたいって、近付きたいってずっと思ってて、
でも全然敵わなくて、本当に憧れてたんですよ!
あっ、でも今は負けてませんよ!
まだ敵わないなって思うこともあるけど、いつか絶対追い付いて追い越してみせます!」
「いや、俺だって絶対に負けてないし、追い付かれないし!
でもさ、あの頃の俺はまだまだガキで、なんであんなに焦って苛立ってたのか、今思うとほんとバカみたいだなって自分で笑っちゃうよ……」
及川さんはため息を吐いて、眉を下げながら笑った。
「でもあの頃の俺を悩ませていたのはそれだけじゃなかったんだ。
何かが俺の頭ん中とか心をさ、ぐっちゃぐちゃに掻き回してきて、意味分からなくて、もがいて混乱して……」
「……な、何かってなんっすか?」
「本当にあの頃は分からなかったんだよ……
だから余計にイライラして、お前に酷いこと沢山しちゃった……ごめんね……」
「いや謝られても、こっちも意味が分からないんすけど……」
困って首を傾げていると、及川さんも困り顔で、でも頬を赤らめて小さく笑った。
「好きだよ、飛雄……」
「……っ!」
穏やかな声音でまた告白されて、頬を赤くさせた及川さんよりも更に真っ赤になってる自信がある。
何回告白されても、慣れないな。
「ガキすぎてお前のこと好きだって、自分のことなのに、気持ちに気づけなかったんだ。
だから混乱して、お前を見てるとドキドキして、頭ん中ぐちゃぐちゃになって、わけが分からなくてイライラして、いっぱい意地悪しちゃった……
本当にごめん……」
そう言い終わって頭を下げた及川さんに、思わずため息が溢れた。
「……自分のことなのに、気持ちに気づけなかったとか……あんた頭良さそうに見えて、実はバカだったんですね……」
「は、はぁ!?」
「俺は中学の時から、あんたを初めて見た時からずっと、好きでした。
及川さんよりも早く、自分の気持ちに気づけましたよ」
誇らしげに笑って見せると、及川さんは悔しそうな、恥ずかしそうな顔でこちらを睨んできた。
「なにさ、自分は大人ですって言いたいの?」
「違います!」
大人とかどっちが先に気付いたとか、そんなこと言いたいんじゃない。
俺は中学の頃のことを思い出して無性に悲しくなって、鼻が痛くなってきた。
「あんな意地悪されたり、睨まれたりされたら、本当に本気で嫌われたって思うじゃないですか!
及川さんは俺のことが嫌い、ずっとそう思ってました。
俺はこんなにも好きなのに、どうしたら及川さんに嫌われない?
好きになってくれなくても良い、ただ近付くことだけは許してくれればそれで良かったのに……」
好きな人に嫌われてるって思うことがどれだけ悲しいか……
そう思っただけで鼻だけじゃない、目もすごい痛くなって、
ついに涙が溢れ落ちてしまった。
そんな俺に気付いた及川さんが、勢い良く立ち上がって、俺を抱き締めてきた。
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