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第20話
中学の時必死で求めたこの力強くて、今は温かく包み込んでくれる腕に、強く顔をすり寄せた。
「だから、俺は青城には行かなかった。
もうこれ以上嫌われたくない、好きな人に睨まれたくない。
近付こうとするからうざがられて、嫌われるんだ。
だから、及川さんに近付かないようにしないといけないと思ったんです。
でもあなたを見ていたいから、せめてコートの反対側からなら見つめることを許してもらえるかな……いや、許してほしかった!
駄目でも、そう願わずにはいられなかったんです!」
そう声を大にして辛くなって、目の前の彼の胸に拳を強く押し付けた。
痛いと思う。なのに彼は動じず、腕の力を弱めることなどなく、更に強く抱き締めてくれた。
「ごめんね飛雄!
俺は、本当にバカだった……モヤモヤして頭ん中ぐちゃぐちゃになって、自分のことだけで精一杯で、お前の気持ちを考えたこともなかった。
最低だった!」
「及川さ、ん……」
俺は、涙を拭く余裕もなくて、胸に押し当てていた手はいつの間にか彼の背中に回っていて、ただ強くしがみついた。
「それに……俺は男だから!
やっぱり及川さんは女の方が良いに決まってるから。
だから、あなたのことを諦めないといけない。そう思ってはいてもそれが出来なくて……
黙って、コートの反対側から見つめていようって心に決めたんです……」
「女の方が良いに決まってるとか、そんなこと決めつけんなよ!」
しゃべり終わった途端、彼が突然体を離して、強く俺の肩を掴んできた。
真っ直ぐと激しく、瞳を逸らせないように合わせられる。
「俺も女とか、男とかいっぱい悩んだ!
でも、性別とかそんなの俺には関係ないって気付いたんだ!
俺にはそんな邪魔なものいらない!
影山飛雄が!
……飛雄がいてくれればそれで良いんだ……」
声を張り上げて一気に捲し立てたくせに、及川さんは言葉の最後に突然優しい声になって、俺の額にそっと唇を落とした。
その感触にビックリして思わず顔を上げると、及川さんは穏やかな顔をしていた。
「好きだよ飛雄……好きなんだ
もううざがったり睨んだりしない。
俺は自分の気持ちに正直でいないと、飛雄が傍にいないとダメになってしまう。
傍にいて、俺を抱き締めて……
そうしないと許さないから」
「傍にいても良いんすか? 本当に良いんすか?」
「うん……傍にいてよ」
「……及川さん……あざっス……」
「もうっ! なんなの!?
俺の方が好きでいてくれてありがとうって言わないといけないのに!
もう……」
笑ってそう言ってから、及川さんがゆっくりと顔を近づけてきて、キスをしてくれた。
「ん……は……及川さん……」
触れるだけの口付けで、直ぐに温もりは離れていく。
それだけなのにすごくドキドキして、恥ずかしくて、でも、
もっとしたいと思ってしまった。
「飛雄……そんな顔しないでよ……」
「そ、そんな顔?」
俺は今どんな顔をしているんだ?
でも今はすごくドキドキして、顔が熱いから、きっと真っ赤な顔してるんだろうな。
そして、及川さんの顔もすごい真っ赤だった。
「やっと気持ちが通じあって、俺達はこれからなんだから、もっとゆっくり愛し合いたいなとか思ってたのに……お前がそんな顔して俺を煽るから
止められなくなるだろ……」
熱っぽい瞳で見つめられ、ますます胸が早鐘を打った。
「飛雄……いい?」
そんな瞳で聞かれたら、駄目だなんて言えるわけないじゃないか……
「好きにして下さい……」
俺がこんなこと言うことになるなんて……
すごく恥ずかしい
恥ずかしいけど、及川さんの真剣で熱い瞳に、抗うことなんて出来なかった。
そう言った途端及川さんは、俺の腕を強引に引っ張って、
なんだと思った次の瞬間には、及川さんにお姫様だっこされていた。
「うわっ!
えっ? え!? 何するんすか!
重いんで降ろしてください!!」
慌てて降りようとしたが力強く抱き込まれ、身動きがとれない。
そのまま及川さんは歩を進めて、ある部屋へと俺を連れていった。
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