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第52話
日曜日、部活が終わり俺は、他のチームメイトより早く体育館を飛び出して部室に駆け込んだ。
今日もチームメイト達に、何か良いことでもあるのか?
なんて聞かれてしまうほど、部活中ずっと浮わついていた。
早く及川さんの所に行きたい。
逸る気持ちを抑えながら急いで着替えていると、
ピロン♪
と、携帯がメールを受信した。
慌てて鞄の中から携帯を取り出す。
《部活終わった?
駅前で待ってるからね♡》
及川さんが俺のために駅で待ってる。
俺だけのために……
そう思っただけで嬉しくて、ニヤケてしまう。
いや、ニヤケてないでさっさと着替えて、及川さんの所に行かねーと!
止めていた手を再び動かそうとしたその時、後ろの方から声が掛けられた。
「駅前で待ってるからね♡だってよぉ~~!
何だよ影山ぁ~俺の知らないうちに彼女なんか作りやがって~
だから部活中ずっとソワソワしてたのか。
羨ましいぜぇ~モテモテ影山くんよぉ~!」
楽しそうに笑いながらバシンと田中さんに、尻を叩かれた。
俺が及川さんのメールを読むのに集中しすぎていたのか、他のチームメイトが部室に入ってきていたことに気が付かなかった。
「あの、勝手に人のメール見ないで下さい」
「見たんじゃね~よ。見えたんだよ!
羨ましいぜまったくよぉ~!」
尻を擦りながら睨むが、田中さんは何処吹く風で高らかに笑って、自分のロッカーへと戻っていった。
そんな相手に俺は、バレないように小さくため息をついた。
そこで、別の視線がこちらに向けられていることに気付いた俺は、その視線の先を睨んだ。
「んだよ。ジロジロ見んなよ……」
そこには日向がボーッと立ち尽くして、俺を真っ直ぐに見つめていた。
その瞳が何処となしか悲しそうに見えて、首を傾げた。
何だよその目?
「?? いつまでジロジロ見てんだよ?
日向? おい、日向?」
何回か名前を呼ぶが日向は返事をすることなく、ボーッとこちらを見つめたままだった。
何だよコイツ……気持ちワリーな……
「ゴラ日向! いつまでもジロジロ見てんじゃねーよ!!
キモいんだよボゲェ!」
何も言わない、返事をしない日向に苛立った俺は、思いっきり日向の頭を撲り倒した。
「ぐあっっ!! いっ、イッテェーな影山!」
「うるせぇボゲェ! ジロジロ見んな気持ちワリー!」
一睨みしてからため息をついて、俺は急いで中途半端だった着替えを済ませた。
日向は頭を押さえながら、こちらを口を歪ませて睨んでいた。
日向のボケに構ってないで、早く及川さんに会いに行こう。
「それじゃあお先に失礼しあーすっ!」
「おうっ! 可愛い彼女さんによろしくな!」
「おっ! 影山行くのか。頑張れよ!」
「お疲れ!」
俺が部室を出ようとすると、入れ違いで澤村さんと菅原さんが部室に入ってきて、笑顔で手をふってくれた。
俺はその言葉に一礼して、部室を後にした。
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