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第53話
早く、早く及川さんに会いたい。
初デート
緊張と楽しみで頭の中がグチャグチャになって、昨日ほとんど眠れなかった。
自分から手を繋いで、ハイ、あ~~んをする。
俺、出来るかな?
分からねーけど、それで及川さんが喜んでくれるなら俺は……
スピードを上げながら、及川さんが待っている駅へと急ぐ。
「あ……ハア、ハァ、お…及川さん!」
「あっ! トビオちゃん!!」
及川さんの姿が見えた途端、俺の足は無意識にまたスピードを上げた。
息をきらしながら名前を呼ぶと、それに気付いた及川さんが嬉しそうに手をふっている。
その姿がなんか可愛くて。
可愛い及川さんを、今まで何人の人が見ることが出来たんだろう。
俺だけが、この可愛い及川さんを知っていたら良いな。
「もぉ~~、そんなに走ってこなくても良いのに」
「ハア、ハァハア、ハア…………すんません、遅くなって。
スゲェ待ちましたか?」
不安になって聞くと、及川さんは満面の笑みを見せてくれた。
なんか今日の及川さんは本当に可愛い。
「良いよ。
飛雄なら一日でも、一週間でも一年でも待てるよ!」
「待たせませんよ」
「え?」
「及川さんに早く会いたいから、一時間も待たせたりしません」
格好つけてるんじゃない、本心だ。
夜も眠れないほど、俺はこのデートを……
及川さんと会うのを楽しみにしてたんだ。
そんな俺があなたを一年なんて、そんなに待たせるわけない。
笑って言うと、及川さんは顔を赤くして俯いた。
「何カッコいいこと言っちゃってんの……
そーいうことは、普通俺が言うべきことなんじゃないの?」
「別に俺が言っても良いじゃないですか。
俺はあんたに早く会いたかったんだから」
「もぉ~~……似合わない恥ずかしいことばっか言わないでよ。
ホラ、及川さんお腹すいてんだよ。早くご飯食べに行こ!」
今日の及川さんは本当に可愛い。
可愛いから、デートだから
だから俺も、言ったら恥ずかしくなるような本心を言えるんだ。
耳まで真っ赤にして、歩き出した及川さんを笑いながら追い掛ける。
あ……そうだ。
俺から、手を繋がないと……
スゲー緊張する……
でも俺から繋いだら、及川さん喜んでくれるって菅原さん達言ってたし……
よ、よし!
「お、及川さん……」
緊張で手を震わせながら、及川さんへと手を伸ばした。
少し指先が触れて、彼がビックリしたような面持ちで勢い良く振り返った。
「!! 飛雄?」
「あ、あの、俺……及、川さんと……」
さっきまで普通に話してたのに、いざ手を繋ごうと意識した途端、緊張して上手く喋れなくなった。
及川さんは少し赤くなりながら、言い淀んだ俺を不思議そうに見つめてくる。
手を繋がないと……いや、繋ぎたい!
勇気を振り絞って及川さんへと手を伸ばそうとしたその時
「あっれぇ~~、王様達とこんなとこで会うなんて奇遇だねー」
「あ? 月島?」
「ゲッ!」
眉を下げてニヤニヤと笑う月島が、俺たちの方へと近付いてきた。
その後ろに日向も付いてきている。
何だよ……せっかく及川さんと手を繋ごうとしたのに、二人がいたら繋げねーな……
さっき様子がおかしかった日向は、今も俺のことを真っ直ぐ見つめている。
なんだ? 日向の奴……?
「なんで二人がここにいるわけ?
偶然とかじゃないよね絶対。
飛雄、二人に今日駅前で俺と待ち合わせしてるって言ったの?」
二人に聞こえないように及川さんが、コソっと耳に唇を寄せてきた。
及川さんの吐息が耳をくすぐってきて、ドキドキした。
「あの、いや、多分ですけど
たまたま田中さんにメールを見られて、それを読まれたから……
それを二人が聞いてて、それで俺達がここで待ち合わせしてたのバレたのかと……」
「本当にドジだねぇ~トビオちゃんは」
「すんません……」
二人でコソコソと話していると、出し抜けに日向に手を握られた。
「影山俺、腹減った! 飯食いに行こ!!」
「は? あっ!!」
日向は早口で言ってから、俺の手を握ったまま走り出した。
あれ? これ、前にも同じようなことあったような……?
つーか、なんで及川さんと手を繋ぎたかったのに、日向と繋いでんだ俺!?
おかしいだろ!
初デートなのに、なんだよこれ!!?
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