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第57話
誰だこの人?
なんでこの人が俺の名前を呼ぶんだろう?
そして、 “梓ちゃん”
及川さんはこの人のことを知ってる。
二人はもしかして……
「あ……ヤッホ、徹~久しぶりだね!
元気だった?」
「あ、うん……元気だったよ。
梓ちゃんも元気そうで良かった……」
ぎこちなく笑う二人。
及川さんが時々俺の方をチラチラと見てきて、ソワソワと落ち着きがない。
そんな彼を真っ直ぐ鋭い瞳で見つめていた日向が、俺がずっと心の片隅で考えていたある言葉を易々と口に出した。
「二人はどんな関係なんですか?
その人もしかして、大……及川さんの元カノですか?」
その言葉に及川さんは、気まずそうに顔を歪めて、またチラリと俺の方を見た。
「あぁ……この人は……」
及川さんが言いにくそうに目を泳がせて口ごもっていると、追い掛けてきたのか月島が、面倒くさそうにのろのろと歩きながらこちらに向かってきた。
「やっと追い付いたよ~
君達さぁ~ご飯代誰が払ったと思ってんの?
後でちゃんと払ってよ。
ん? この人誰?」
月島のほうけた顔に、女の人がクスリと小さく笑った。
「私、徹の元カノの新藤 梓っていいます!
よろしくね!」
とても明るく笑った新藤さんを見た瞬間俺の頬を、嫌な汗が伝った。
明るくて、にこやかにハキハキとしゃべる新藤さんは、なんか俺と正反対だと思った。
新藤さんがニコニコして、俺と日向の所に早足で近付いてきた。
「とびおってどっちって思ったけど、多分、こっちの黒髪サラサラショートの方だよね?
どう、当たってる?」
首を傾げながら俺の方を指差してくる。
確かに俺は飛雄で、黒髪サラサラショートだけど。
初めて会ったのに、何故分かったのだろうか?
別に日向が飛雄という可能性だってあるのに。
「そうですけど、どうして?」
「あのね、学校の女子、みーんなが噂してるのよ。
徹の好みはゆるふわよりもサラサラで、ロングよりショート!
で多分、下手に染めるより黒髪のままの方が良いって言う情報も出ててね。
後、切れ長の目のクールビューティーが好きと言う新情報もあって!
全部揃ってるのは、こっちのオレンジ髪君より、君だなって思って♪
まさかここまで言い当てるとは、女子の皆様勘が鋭すぎでしょ!」
楽しそうにはしゃぐ新藤さんに、呆気に取られる俺と日向。
つーか、その青城の女子達に、まさか俺と及川さんが付き合ってるってばれてないよな?
「なんか……揃ってるって言うより、まんま王様だよねそれ……」
月島は呆れ顔をしながら、及川さんを横目で睨んだ。
それに苦笑いを返す及川さん。
「てゆーか、徹が言ってたとびおって、なんか男っぽい名前だなって思ってたら、まさか本当に男だったとはね……」
及川さんが言ってたと言うのは、恐らく彼女達と一緒にいた時に言った寝言のことだろう。
それを聞いたら、なんかすごく恥ずかしくなる。
及川さん……やっぱり彼女達の前で、あの時みたいな笑顔で俺の名前呼んでたのか……
恥ずかしいけど、なんか嬉しさが込み上がってきた。
嬉しすぎて、思わず顔がにやけそうになる。
それを必死に隠そうとしていると、新藤さんが突然顔を近付けてきた。
「ん~~でも、とびおって結構良い顔してるねぇ~
私、とびおの顔メッチャ好みかもなぁ~」
なんて言いながら、チラリと及川さんの方を見る彼女。
及川さんは眉間にシワを寄せて、俺達の方を睨んでいる。
「ちょっと梓ちゃん、なんか近すぎない?
言っとくけど、飛雄と俺はもう付き合ってるから!
だから、ちょっと離れてくれない?」
「えぇ~~~~、う~~んだったら今度は、私と徹はライバルになっちゃうんだ?」
「え?」
にまにま笑いながら及川さんを見た後彼女は、素早く俺の方へと向き直り、背伸びをしながら俺の腕を勢い良く引っ張った。
そして、気付いた時にはもう、俺の頬に新藤さんの唇が触れていて
キスされていた。
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