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第59話
俺の手を痛いほど強く掴んで、早足で突き進む及川さんの後ろを、転けないように付いて行く。
「お、及川さん! 早いっすよ。
ちょっと待って……」
さっきから何回もそう言っているのに、彼はずっと無言で返事をくれず。
俺の不安を掻き立てる。
及川さん怒ってるのか?
どうして?
俺は何も悪いことしてないのに。
突然新藤さんにキスされて、言っちゃあ悪いけど俺は被害者なんだ。
それなのに及川さんは俺の手を引っ掴んで、乱暴に引っ張って……何も喋ってくれない。
どうして、怒ってるんだ?
今日は初デートで、及川さんと楽しんで共に喜びあって、
沢山あなたに笑って欲しかったのに……
なんで怒ってるんだ? なんで笑ってくれないんだ?
今日一日楽しみにしてたのに、どうしてこうなったんだよ……
及川さんの家に連れて来られて、鍵を開けた及川さんはまだ無言のまま、乱暴に俺を突き飛ばすように中に入れた。
「うわっ! ちょっと及川さん!?」
そして洗面所へと連れて行かれる。
勢い良く水を出して頭を掴まれ、強引に洗面台の方へ前屈みにさせられる。
「な、何?!」
「あの子にキスされたとこ、しっかり洗えよ」
そう言われ、無理矢理頬を洗われた。
やっと喋ったと思ったら、低い声でそんな命令をして、無理矢理水をかけてくるなんて。
そんな怖い声でこんなこと、止めろよ。
悲しくなる……
そして顔を拭かないまま、今度は寝室へと引っ張られた。
なんで寝室に?
掴まれていない方の手で顔を拭いながら首を傾げていると、突然乱暴に突き飛ばされた。
「うわっ!! ちょ……んぅっ!」
ベットに押し倒されたと分かった時にはもう、及川さんの唇によって、声を出すことが出来なくなっていた。
強引で熱い唇……
痛くなるほど唇を押し付けられ、口内を乱暴に掻き回される。
二人の唾液が混ざりあって、及川さんが舌を動かす度クチュクチュといやらしい音を生み出す。
その音を聴いているとクラクラするような、おかしな気分になってきた。
「ん、ふぅぅ……ん、ふ…」
今までこんな強引なキスなんてしたことなかったから、混乱して頭の中がグチャグチャになってゆく。
こんなの嫌だ!
前みたいに優しくしてくれよ……
そう思っていても、及川さんのキスは激しくなる一方だった。
何度も何度もキツく舌を吸い上げられ、苦しくて視界が滲んできた。
「んん、ん……ぁ……んふ、んんっ…んあぁ、うぅ……」
もう苦しくて、苦しくて。
それを訴えようと、必死に首をふった。
「んんんぅ、ふぅ、んん、んふぅ!」
それでも全然止めてくれず、もっと舌を吸い上げてくる。
キツくキツく、何度も。
いや……嫌だ
こんな酷いのは嫌だ!!
もっと優しくして! 怖いよ及川さん!!
これだけはしたくなかったけどこの苦しみから逃れたくて、俺は震える手を必死に振り上げて、及川さんの頬をひっぱたいてしまった。
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