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第64話

「ん……う…」 フッと目が覚めた俺は、薄暗い部屋の中を見渡す。 今何時だろうと確認するため、時計を探してベットサイドへと手を伸ばした。 ズキリと痛む腰を擦りながら、目覚まし時計を手に取って時刻を確認する。 「4時20分……か……」 この暗さから考えるともちろん16時ではなく、朝方の4時だろう。 くああぁ……とあくびをしながらふと隣を見ると、そこには昨日まで俺を抱いていた相手、 及川さんの姿がどこにもなかった。 「え……及川さん……? ち、ちょっと及川さん! 何処ですか??!」 痛む腰を庇ってる場合じゃない。 俺は慌てて起き上がり、急いでベットから降りた。 及川さんは俺を置いて何処に行ったんだ? まさか……まだ怒っていて、出て、行った……とか? 嘘だろ!? でも、ここが及川さんの家だし、出て行くとかはない、よな? いや、でも! 「及川さん、及川さん!! 何処? 何処ですか!?」 俺は服も着ずに、及川さんを探し回った。 もしかして風呂? いない。 キッチン? やっぱりいない。 なんで? どうして俺が寝てる間に出て行くんだよ!! なんで怒ってたのか分からないけど それでも、それでも謝らせてくれよ! 俺があんたを不安にさせてしまった。 気付かないうちに傷付けてしまった。 大切な人を悲しませてしまった。 ごめんなさい及川さん 「及川さん! 何処行ったんだよっっ!! 頼むよ……何処にも行かないで! 傍にいてくれよ……他に何も望まないから! く……うぅ……おい、か……さん……」 涙が次から次へと溢れ出てきて、止まらない。 この涙を止めることが出来るのは、あんたしかいないんだよ及川さん! 「ふ……う……おいかわさん……戻って…きて……」 「飛雄……?」 何処からか聞こえてきた愛しい人の声。 勢い良く顔を上げると、ベランダの方から及川さんがこちらに近付いて来ていた。 「おい、かわさ、ん……」 「どーしたの飛雄? そんなに泣いて……」 「おいかわさぁぁぁんっっ!!!!」 及川さんの姿が目に映った時、 嬉しくて、ホッとして 涙がもっと溢れ出てきて、 俺は、及川さんに抱きついた。 俺の背中を優しく擦って包み込んでくれる温もりに、安堵のため息をこぼす。 「飛雄、俺が傍にいなくて寂しかったの?」 何処となしか嬉しそうな声に今度は恥ずかしくなって、顔がじわじわと熱くなった。 その言葉通り、本当は目が覚めて及川さんがいなくて寂しかったのに、つい意地をはってしまった。 「さ、寂しくなんかないです! 俺を何歳だと思ってんすか? つーか、今まで何処にいたんすか?」 少しむきになって言うと、及川さんは何故か寂しそうに笑った。 そんな彼の顔に、むきになってしまったことを後悔した。 「そーだよね……飛雄は俺が居なくても寂しくなんか無いよね……」 「え、あの、及川さん?」 「さっきまでベランダにいたんだ。 そろそろ朝日が昇る……服着ておいでよ。 すごいキレイだから一緒に見よーよ……」 そう切なそうに笑って手招きする及川さんに、俺は何も返す言葉が思い浮かばず、黙って頷いた。

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