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第71話
二人で手を繋いだまま歩いている。
及川さんの手……熱くて、ちょっと汗ばんでて、でも心地よくて……
今はドキドキよりも繋いでることが当たり前のような、そんな気さえしてくる。
ずっと繋いでいたかった
けど、もう分かれ道……
「……あ、俺こっちなので、及川さんちゃんと朝練行ってくださいね。
じゃあ……」
そう言って手を離そうとしたが、及川さんがそれを拒んだ。
「…………及川さん……学校行けませんよ。
離してくれないと遅刻する」
「うん……それは分かってんだけど……ね。
その、飛雄……俺…ね」
「分かってんなら、遅刻する前に早く影山を離してください!」
俺の手をギュッと握りながら言葉を絞り出すように発する及川さんの肩を、突然誰かが後ろから掴んだ。
新たな声に二人同時に振り返る。
そこには昨日俺のことをすごく心配してくれていた日向が、片手で自転車を支えながら、こちらを真っ直ぐ見つめていた。
「おぅ、日向……はよ」
「おはっす影山……」
まだ目を逸らさず俺を、真っ直ぐ見つめる日向。
そんな日向に及川さんはフーーと長いため息を吐いた。
「なんかさぁ~~いっつもチビちゃんやメガネくん、良いところで来ちゃうよね?
なんなの君達?
今はメガネくんいない見たいだけど。
こんな邪魔して楽し?」
「邪魔なんてしてません!
俺はただ、また大王様が影山を傷付けてないか心配なだけです!」
一気に捲し立てて言われ、ドキッと心臓が鳴った。
昨日の日向は俺のことすげー心配してくれたのに、あの後何も言わず帰っちまったんだよな……
昨日の俺は本当に不安定だった。
今もまだ新藤さんが現れたことで、不安なことがまた増えたけど、それでも及川さんとはこうして今も手を繋いで一緒に居られてるし……
勝手に事件は解決したみたいな感じになってるけど、日向を振り回したのに何も言わず謝ってなかった。
なんか、悪かったな。
「ひ、日向、俺はもう大丈夫だ。
もう傷ついたりしないと思うし。
及川さんとはこうして一緒に居られてるし。
その、心配してくれてサンキューな……」
申し訳ない気持ちを込めて礼を言うと、日向がギロリと睨んできた。
「なんで、分かるんだよ?
もしかしたら、また傷つくかもしんねーじゃん……」
「傷つかず、このままずっと上手く行くかもしれねーし、沢山すれ違って喧嘩するかもしれねー。
それでもすぐ仲直りして、及川さんとだったら絶対別れないと思う。
心と心は繋がってるから!」
まだ不安を全部取り除けた訳じゃないけど、及川さんが隣に居てくれるなら大丈夫だ。
笑って隣を見ると、及川さんも優しい微笑みを届けてくれる。
それが嬉しくて握ってくれた手を、ギュッと握り返した。
そんな俺達を見た日向は何故か一瞬顔を歪ませてから、小さくため息を吐いた。
「何その根拠のないセリフを堂々と……
てゆーか、今まで大王様と一緒にいたから俺のメール返してくれなかったのか?」
「は? メール?
そんなのくれてたのか!? ワリー見てなかった……」
そう言えば、昨日はずっと及川さん怒ってたし、朝もバタバタしてたから携帯を見れる状況じゃなかった。
日向……メールくれてたんだな……
「お前今までそんなメールなんてくれたことなかっただろ?
なんで突然?」
「なっ! 俺がお前にメールしたらダメなのか!?」
「いや、ダメじゃねーけど!
悪かったな、今から見てみるわ……」
俺の疑問に日向は、何故か顔を赤くして狼狽えている様子だった。
それに首を傾げながら、メールの内容を確認しようとしたその時、
及川さんが携帯の画面を手でおおって、それを阻止した。
「ちょっと飛雄!
彼氏の目の前で他の男のメール見るとか、どうかと思うけどぉ?」
「えっ! あ、すんません!」
及川さんの嫌なものを見るような目に、慌てて携帯をしまった。
そんな俺に、また日向は顔を歪ませていた。
「じゃあ影山、後、学校で見てよ……」
「お、おう……」
「…………学校、ね……」
返事をして日向を見ると、彼は俺に言ったにも拘わらず、及川さんを睨みつけていた。
及川さんも真っ直ぐ日向を睨んでおり、二人の間になんとも言えないどす黒いオーラが見えた気がした。
なんでコイツら、こんなに仲が悪いんだ?
及川さんは俺の彼氏で、日向は相棒だ。
出来ることなら、二人には仲良くして欲しいのに……
「飛雄……やっぱり俺、烏野まで送りたいんだけど……」
二人の睨み合いに顔をひきつらせていると、及川さんが日向を見たまま、またギュッと手を握ってきた。
この人! まだこんなこと言うのか!!
「及川さんあんた、俺のさっきの話聞いてました?
あんたは俺の目標でずっといてほしいんだって。
その為には朝練をサボらず、真っ直ぐバレーに取り組んでほしいんです!」
「それは分かってるよ……俺だってお前にずっと目標にしてもらいたい、ずっと見てて欲しいって思うけど……でも今日は……チビちゃんいるし……」
「日向は同じ学校だから毎日いるのは当たり前です!
そんなこと言って、あんた毎日烏野まで送るつもりですか?
しっかり練習してください!」
「チビちゃんが同じ学校ってのは分かってるけどさ……」
声を大にして言うと、及川さんはすねたように唇を尖らせた。
そのウジウジした態度にイライラが募る。
「及川さん、俺言いましたよね?
烏野まで送るとか言ったら、もう及川さんの家に行かないって!」
「えっ! セックスどころか、家にも来てくれないの?!
寂しいこと言わないでよ飛雄!!」
「せ、セックスぅ?!」
「なっ! 日向の前でそんなことデケー声で言うなボゲェ!!
もう、分かったらさっさと行ってください!!」
怒りを含んだ俺の言葉に、及川さんはシブシブといった感じで青城へと向かっていく。
時々、チラチラと振り返りながら歩く姿に俺は、犬を追い払うみたいにシッシッと手を振った。
「ムッ!
何さ、飛雄のバーカバーカ!!
チビちゃん、飛雄に変なことしないでよねっ!」
そう捨て台詞?を残して、及川さんは走り去っていった。
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