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第72話

「及川さん何言ってんだ? 日向が俺に変なことするわけねーだろ?」 走り去る及川さんを見送りながら呟く。 「なんでそー思うんだよ? もしかしたら本当にお前に変なことするかもよ?」 「ハッ! お前がそんなことするわけねーだろ! バカなこと言ってないで、俺達も早く行かねーと朝練間に合わなくなるぞ」 なんだよそのノリの良い返事は。 お前がそんな可笑しなことするわけねーだろ? 日向はそんなキャラじゃない。 俺は鼻で笑いながら、烏野へと足を運ぶ。 すると、それを追い掛けてきた日向が似合わない低い声を出してきた。 「俺も随分信用されてるもんだな……」 「相棒を信用するのは当たり前のことだろーが!」 笑って日向にデコピンをかましてやる。 じゃないと勝てる試合も勝てやしねぇ。 なんて、明るく言ってやったのに日向は額を押さえて、まだ暗い顔をしている。 本当日向らしくねーな…… どーしたんだコイツ? 「あんまり信用しすぎてると、痛い目見るかもしんねーぞ!? 気を付けろ!」 「ヘタレのお前がどう痛い目見せんだよ?」 「へ、ヘタレじゃねーよ! ……そりゃ、その時になってみねーと分かんねーけど。 つーかお前、大王様とセックスしてんのか?」 やっぱり日向らしいヘタレな発言に、また鼻で笑っていると、それに付け加えられた恥ずかしい単語に目を見開いた。 その言葉にさっきまでの余裕が何処かに吹き飛ばされ、顔が熱くなってゆく。 「お、お前! さっき及川さんが言ったことは忘れろ! 分かったな!!」 「いや、さすがに忘れられるわけねーだろ! お前本当に大王様とセックスしてんのかよ!?」 何故か真剣な瞳で問い質され、俺は誤魔化しが思い付かず深いため息を吐いた。 「あーー……まあ、及川さんとは付き合ってるし……まあ、その、ヤるよな、普通……」 「普通なんだ……ヤってるんだ……」 「あーそーだな、ヤってるよ」 「昨日もヤったのか? 俺のメール無視してヤってたのか!?」 「ブフっっ!!」 なんなんだこの恥ずかしい会話は! 思わず吹き出してしまった。 確かに日向の言う通り昨日ヤった。 別に無視したわけじゃねーけど、結果的にはそういうことになるよな……悪気はなくても。 「わ、悪かったな……朝練の後にちゃんと見るから許せよ」 「や、やっぱり俺がお前のメールを待ってる間に、ヤってたんだな!!?」 「だから、悪かったって言ってんだろ!」 「ど、どんな風にヤってたんだよ? やっぱりお前が受け? どんな声で喘いでんの?? 気持ち良かった?」 「なんつーこと聞いてんだボゲェっっ!!!! 下らねー話してねーで、さっさと行くぞクソボゲェ!」 「あ、待てよ影山ぁ!」 日向の質問攻めに顔がどんどん熱くなって、スゲー恥ずかしい。 俺は絶対赤くなっているであろう顔を隠すため、早足で進む。 逃げるように早足で進む俺を追い掛けてきた日向が、横に並んだと思ったのと同時に、 突然手を繋いできた。 「は? なんだよ!? 離せよ!!」 「大王様とはセックスしてんだろ? だったら、俺と手を繋ぐぐらいいーじゃん!」 「何意味分かんねーこと言ってんだ?」 及川さんとは付き合ってんだから、セックスするのも手を繋ぐのも普通のことだ。 じゃあ、相棒の日向と繋ぐのはどーなんだ? 普通のこと? 「お前の手、スゲー熱いな……」 そう呟いた日向の顔は何故かすごい真っ赤だった。 その赤面に、こっちまでなんか恥ずかしくなっちまう。 「あ、暑いんなら離せよ……」 「いーじゃん、このままで……」 優しくそう言って手を離してくれない日向に、戸惑いながら それでも日向の嬉しそうな顔に何も言えず、俺は手を繋いだまま歩を進めた。

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