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第73話

あの後俺達は少し遅刻したけど、なんとか朝練に間に合った。 手を繋いでた俺達を見て、月島がめちゃくちゃ嫌な顔してたけど、日向はずっとニコニコしてた。 及川さんは、朝練間に合ったかな? 朝練が終わって部室で着替えていると、日向がチラチラ何回もこっちを見てきた。 「んだよ日向、メールのこと気にしてんのか? 教室に行ってからじゃダメか? 今見た方が良いか?」 首を傾げながら聞くと、日向は顔を赤くして目を泳がせた。 「べ、別にたいしたことじゃねーから、いつでも良い!」 「ん、そーか?」 赤面状態の日向を不思議に思ったが、 ならまぁいっか、なんて軽く考えてジャージのズボンを脱いでいると、まだ日向はこちらをじっと見ている。 なんなんだコイツ? ジロジロ気持ちワリ~…… 「なん────」 「ちょっと日向、何王様の身体に見とれてんの? ジロジロ見すぎでしょ?」 あまりにも視線を感じで気持ち悪かったから、文句を言ってやろうと思ったが、月島が代わりに言ってくれた。 本当にコイツはジロジロ見すぎだ。 クスクス笑う月島の言葉に日向は、更に顔を赤くした。 「な、何言ってんだよ! み、みみ、みと、見とれるわけねーだろ!!」 「うわ~~~~、吃りすぎ~~ 図星? 本当に見とれてたんだぁ~~」 「見とれてねーーよ! ただ……朝、大王様がスゲーことゆーから……」 「大王様が? 何?」 なんでそこで及川さんが出てくる? ま、まさかコイツ、朝及川さんが言ったあの言葉を月島に言うつもりか?! 日向は目を泳がせてそわそわしながら、口を開こうとする。 「大王様と影山さ、セッむぐぐっっ!!」 「あーーーー!! 日向うるせーぞゴラ!!」 俺は慌てて日向の口を塞いだ。 コイツ絶対今、セックスって言おうとした! あぶねぇ~~油断もすきもないな。 「ちょっと王様の方がうるさいんだけど! ねぇ、大王様と王様がなんなの? 気になるじゃん!?」 「気にすんなボゲェ!」 「いや、すごい気になるんですけどぉ~」 「ホラ、お前ら。無駄話してないでさっさと着替えろぉーー授業遅れるぞ~」 ギャアギャア騒いでいると、菅原さんが笑いながら日向と俺を引き離して言った。 「ハーーイ……」 「う、ウス……」 「…………」 月島はつまらなそうな顔をしながらも、言われた通り自分のロッカー前に戻って行く。 そこでコソリと菅原さんが俺の耳に口を近づけてきた。 「昨日は、楽しんだみたいだな?」 「なっ!」 「さっき日向セックスって言おうとしたんだろ?」 笑いを含んだ言葉に、ドンドン顔が熱くなってゆくのが分かる。 「ハハ、顔真っ赤だべ。楽しんだなら良かった。 ホラ、早く着替えて教室行くべ」 ニヤニヤと立ち去って行く後ろ姿を見て、やっぱり年上には勝てないなとしみじみ思った。 無理矢理されたけど、気持ち良かったし……あれは楽しんだと言うことなのか…… それでもあんな恥ずかしいこと言わないでほしい。 気持ちを落ち着かせるため、ふうっと小さくため息を吐いていると、赤面のままの日向がまだこちらをじっと見つめていた。 「なんなんだよお前?」 「か、影山……」 「んだよ?」 「あ、後でまたメールするからな。 いっぱいいっぱいするから!」 「は? そんなメールすることあるか?」 俺の質問には答えず、日向はめちゃくちゃ速いスピードで着替えて、早々と部室を出ていった。 日向の意味不明な言葉に、また首を傾げた。

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