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第81話
さっさと家に帰れと日向に背中を押されて、俺は仕方なく家に帰ったけど……
その後及川さんからメールで、“会いに来て”と言われて、
ただ今俺は及川さんの家のチャイムを、鳴らしたところだ。
ここに向かっている途中でも、今でも俺の心臓はヤバイぐらい脈打っている。
すごい緊張して、ドキドキうるさい……
胸にグッと掌を押し当てていると、勢い良くドアが開き放たれ、驚く暇もないほどの早さで中へ引っ張り込まれた。
「うあっ!
……は…………及川さん…」
ドアが閉まる音が耳に届く……
及川さんにギュッと抱きしめられ、大きな固い胸に顔をうずめる。
彼が俺の髪を絡め取って、チュッとキスをした。
ますます鼓動が高鳴り、苦しくなる。
「飛雄……良い匂い……」
そう呟いて及川さんは、俺を強く抱きしめてくれる。
もっと彼の胸に顔をうずめる形になる。
「ねぇ、俺の匂いも良い匂い?」
耳元で囁かれた甘い質問に、俺は及川さんの背中に腕を回し答える。
「き、緊張しすぎて、よく分かりません……」
「ふふ……何それ、可愛い
ねぇ飛雄、今すぐお前を抱きたい。
良いよね?」
小さく笑った後に、甘く低い声で言われた言葉……
それにドキッと大きく心臓が脈打った。
背中に回した腕に、力を込める。
「あの、俺……」
「ね、良いよね?」
「でも俺、部活ですごい汗かいたから……先に風呂に入りたいです……」
「後で良いでしょ……早くお前を抱きたいんだ……」
そう言って及川さんは、俺の首筋にキスを落としてきた。
その甘い感触に、思わず小さく声が漏れてしまう。
「……んっ、あ…」
「ほんと可愛い、飛雄……」
俺の反応に嬉しそうに笑って彼は、
今度は首筋を甘噛みしてから、舌をゆっくりと這わしてくる。
ダメ……汗かいてるのに
「んぁ、や……及川さん……
俺汗臭いから、風呂に行きたい……」
「臭くないよ、すごいそそられる……良い匂いがする。
俺、飛雄の匂い、すんごい好き……」
及川さん、俺の匂い好きなんだ……
良かった……
やっぱり好きな人には、自分の匂いも好きって思ってほしい。
今は緊張して匂えないけど、俺も及川さんの匂い、絶対好きだ。
好きって思ってもらえて、スゲー嬉しいけど
それでも、やっぱり汗かいてるし……
「そ、そんなこと言ってもダメです……風呂行かせてください」
「ん~~、じゃあ一緒入る?」
笑みを含んだ声に、顔が熱くなる。
及川さんと一緒に風呂に入るとか、恥ずかしすぎて死んでしまいそう。
「恥ずかし……一人で入ります」
「ふふっ……そ? 残念。
じゃあ、入ってきな。待っといてあげるから」
嬉しそうに、でもどことなしか楽しそうに笑って、抱きしめていた腕の力を弱めてくれた。
「じゃあ、すぐ出てきますから……」
「うん。待ってる……」
絶対赤くなっている顔を隠すように、俯きながら風呂場へ急いだ。
及川さんの甘く、低く囁かれた声を思い出しただけで、ドキドキして身体が熱くなる。
日向達と一緒に居た時は、ニヤニヤ笑ってたくせに……アパートに来た途端あんな甘くて……
やばい、意識しすぎてクラクラする
熱くドキドキする心を平常に冷静に戻すため、頭から冷たいシャワーを浴びた。
すごく冷たかったけど、及川さんの低く囁かれた言葉を思い出すだけでまた身体に熱がたまっていき、なかなか冷めてくれなかった。
「お、及川さん……上がりました……」
恥ずかしくてずっと風呂の中に居たかったけど、やっぱりそれはいけないなと思い、
そわそわしながら体を拭いて風呂から出た。
リビングに居た及川さんに声をかけると、ニコッと笑って手招きをしてきた。
「おいで、飛雄」
「いや、ダメです。
及川さんも風呂入ってきてください」
「えーーいいよ~……それより、飛雄来て」
「ダメです! 入ってきてください!」
頭を振って強めの口調で言うと、及川さんは態とらしく頬を膨らませて立ち上がった。
「分かったよ……じゃあ飛雄すぐ出てくるから、先に寝室に行って待っててね」
そう言ってウインクしてから、立ち去り際にポンっと肩を叩かれる。
ただそれだけのことなのに肩に触れた彼の体温に、またじわじわ顔が熱くなって、及川さんの後ろ姿を恨めしい気持ちで睨み付けた。
くっそ……また俺をドキドキさせて……心臓壊すつもりか。
でももう二回もシてるのに、まだこんなにドキドキするなんて……
いや、及川さんがカッコ良すぎるから、仕方ないんだ。
なんて心の中で呟いてから、俺は言われた通り寝室に向かった。
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