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第84話
「お前は俺のだろ?」
真っ直ぐ真剣な眼差しで、射ぬくように見つめられ、俺は思わずゴクッと喉をならした。
さっきの低く甘い声とは違う、別のどすを利かせた低い声。
及川さん怒ってる? なんでだ?
さっきまでの及川さんはあんな優しい顔で、優しく甘い声で、
すごい良い雰囲気だったのに……
俺何か悪いことしたか?
分からない けど、
聞かせてくれよ
またあの甘く低い、優しい声が聞きたいよ……
「お、俺はずっと及川さんを見てるし、及川さんのものだから今ここにいるんです!」
そうだよ、俺は及川さんの恋人だから、
会いに来てって言われたら直ぐに会いに行くし、
及川さんに抱きしめられたら恥ずかしいけど、スゲー嬉しいんだ。
だから、さっきの言葉は本心で、嘘偽りは無いんだ。
ずっとあなたを見てる。
自信に満ちた気持ちで、俺も真っ直ぐ見つめ返したけど、及川さんは何故か悲しそうに顔を歪めた。
「嘘つくなよ!」
「う、嘘なんてついてません!」
「さっきまで俺を見てなかったじゃん!
ずっと携帯見て、こっち見てくれなかっただろ!
楽しそうにメールして、及川さんよりメール相手の方がいーんだろ?」
「楽しそうにメール?
俺はイライラしながらメールしてたんすけど……どー見たら楽しそうに見えたんすか?」
「だって……及川さんとは2、3回で終わるくせに、そいつとは長々と続けてたじゃん!
それに確かにお前の顔は怒ってるように見えたけど、でもなんか、メールしてる姿が楽しそうに見えたんだ!!
……いや、
もしかしたら……ただ俺は、羨ましかっただけなのかもしれない……」
「及川さん……」
声を大にして一気に捲し立てた後、少し沈黙してから及川さんは、顔を赤くしてため息混じりに呟いた。
羨ましかった……?
俺と日向がメールしてるのが羨ましかったのか?
どうしてか分からないけど、まさか及川さんがヤキモチをやいてくれるなんて……
そのことがなんか、とてつもなく嬉しく感じた。
嬉しさのあまりニヤケそうになる顔を見られたくなくて、思わず俺は及川さんから顔を背けた。
「飛雄……どうしてこっち見てくれないの?」
「いや、あの……なんてゆーか、その……」
無意識に目が泳ぐ。
俺今、絶対変な顔してるから、そんなの見られたくないんだよ!
そんな俺の腕を掴む及川さんの力が、少し増した気がした。
「俺はお前とただメール出来るだけで幸せだって思ってた。
ずっと好きだったけど近付けなくて、この気持ちを消そうと忘れようと必死にもがいてた時があった。
だから、両想いの今がすごい幸せで、ただメールが出来るだけでもすんごい幸せだって思ってたけど。
でも、お前がメールするの好きじゃなさそうだからさ、沢山したいけど、面倒臭いってウザがられるのが嫌だからあんまりしないようにしてた。
でも……さっきのお前は、沢山メールしてて、なんか楽しそうで……
それが羨ましくて……なんか、腹が立ったんだ」
俺と日向がメールしてるのが腹立つ……?
そんなこと考えてたのか。
今まで友達とメールしたこと無かったから嬉しくて、勿論ずっと好きだった及川さんとメールするのも俺はすごい幸せな事だと思ってる。
及川さん……俺は、俺は……友達とメール初めてだから楽しかったけど、
でも、大好きなあんたが嫌だって言うなら俺は
勿論、あんたを優先するよ
「及川さん、俺……んぅ……」
そう決心して、この考えを伝えようと及川さんの方へ向き直ったその時、唇を塞がれた。
愛しい人の唇は、触れただけですぐ離れていってしまう。
それを残念に思いながら彼の顔を見ると、そこには鋭い目付きで俺を見つめる瞳があった。
そんな瞳に一瞬身体がビクッと震えたと同時に、強い力でベットに押し倒された。
「……あ、及川さん……」
鋭い、そんな怖い眼差しで見つめられているのに、ドキドキして、ゾクゾクしている自分がいる。
彼は今怒っている……でも、
俺のことが好きすぎて嫉妬して、怒りに染まったその心で、手で、
メチャクチャに抱いてほしい……
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