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・第86話・

どうしてそんな顔するんだ…… 及川さんのそういう悲しそうな顔は、嫌いだ。 見たくない…… まだ怒った顔の方がましだ。 あなたの嫉妬や不安を取り除いてあげたいのに、俺には出来ないのか? そんな顔していたら、こっちが不安になる。 俺は悲しそうにこちらを見つめてくる及川さんへ、不安を押し込めてそっと手を伸ばした。 「及川さん……」 すると、伸ばした手を優しく握って、甲に軽くキスを落としてくれた。 その小さな暖かい感触に、ドキッと心臓が脈打った。 熱くなっていく顔をどうすることも出来ず、キスをくれた唇をただ見つめていると、その形の良い唇がゆっくりと近付いてきた。 キス…… そっと目を閉じる 柔らかく、熱い唇が触れたと思った次の瞬間、ギュッと強く抱きしめられた。 「…あ……及川さん……?」 「ごめんね……」 耳元で響く謝罪の言葉。 どうして、なんで謝るんだ? 抱く腕の力が増して、苦しさを感じながらも、 俺も彼の背中に腕を回して強く抱きしめ返した。 「今日は優しくしようって、飛雄に気持ち良くなってもらいたかったのに…… また酷く抱いちゃった…… ごめんね飛雄。痛かったよね。 優しくしたかったのに、俺またこんなに飛雄を傷付けた。 痛くして、泣かせてごめんね。 ごめん…………」 悲しく響く声に、俺は思わず笑みをこぼした。 本当にあなたは、俺を好きすぎてる…… 抱きしめてくれるこの腕の力からも、それが痛いほど強く伝わってきた。 泣いてしまうほど嬉しくて 俺もあなたのことが本当に大好きなんだよ…… この二人の気持ちを守るように、優しく彼の頬を両手で包み込んだ。 「及川さん……顔、上げてください……」 「ト、ビオ……」 頬をゆっくり撫でながら言うと、及川さんは俺の言葉通り顔を上げてくれた。 こちらを見つめる瞳はゆらゆらと揺らめいていて、とても綺麗で ずっと見つめていたい……そう思わずにはいられないほど美しく輝いて映った。 「良いですよ、酷く抱いても……」 「え?」 「俺のこと好きでいてくれるならそれで良い。酷くされても、泣かされても、あなたが俺を好きでいてくれるならそれで良いんです。 思いっきり 強く 抱いて……」 真っ直ぐ見つめて微笑んで、頬を包み込んでいた手を首へと滑らせて、彼を引き寄せる。 チュッと音を鳴らして、あなたにキスを届けるよ。 愛してくれるなら、どうされたって構わない…… 彼も俺を熱い潤んだ瞳で、真っ直ぐ見つめてくれる。 コツンと額と額をくっつけて、二人で笑いあった。 「飛雄、好き…… 俺の全てを受け入れて」 「もちろん」 もう一度強く抱きしめあって、俺達は熱く 深い深いキスを何度も交わした……

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