87 / 345
・第86話・
どうしてそんな顔するんだ……
及川さんのそういう悲しそうな顔は、嫌いだ。
見たくない……
まだ怒った顔の方がましだ。
あなたの嫉妬や不安を取り除いてあげたいのに、俺には出来ないのか?
そんな顔していたら、こっちが不安になる。
俺は悲しそうにこちらを見つめてくる及川さんへ、不安を押し込めてそっと手を伸ばした。
「及川さん……」
すると、伸ばした手を優しく握って、甲に軽くキスを落としてくれた。
その小さな暖かい感触に、ドキッと心臓が脈打った。
熱くなっていく顔をどうすることも出来ず、キスをくれた唇をただ見つめていると、その形の良い唇がゆっくりと近付いてきた。
キス……
そっと目を閉じる
柔らかく、熱い唇が触れたと思った次の瞬間、ギュッと強く抱きしめられた。
「…あ……及川さん……?」
「ごめんね……」
耳元で響く謝罪の言葉。
どうして、なんで謝るんだ?
抱く腕の力が増して、苦しさを感じながらも、
俺も彼の背中に腕を回して強く抱きしめ返した。
「今日は優しくしようって、飛雄に気持ち良くなってもらいたかったのに……
また酷く抱いちゃった……
ごめんね飛雄。痛かったよね。
優しくしたかったのに、俺またこんなに飛雄を傷付けた。
痛くして、泣かせてごめんね。
ごめん…………」
悲しく響く声に、俺は思わず笑みをこぼした。
本当にあなたは、俺を好きすぎてる……
抱きしめてくれるこの腕の力からも、それが痛いほど強く伝わってきた。
泣いてしまうほど嬉しくて
俺もあなたのことが本当に大好きなんだよ……
この二人の気持ちを守るように、優しく彼の頬を両手で包み込んだ。
「及川さん……顔、上げてください……」
「ト、ビオ……」
頬をゆっくり撫でながら言うと、及川さんは俺の言葉通り顔を上げてくれた。
こちらを見つめる瞳はゆらゆらと揺らめいていて、とても綺麗で
ずっと見つめていたい……そう思わずにはいられないほど美しく輝いて映った。
「良いですよ、酷く抱いても……」
「え?」
「俺のこと好きでいてくれるならそれで良い。酷くされても、泣かされても、あなたが俺を好きでいてくれるならそれで良いんです。
思いっきり
強く 抱いて……」
真っ直ぐ見つめて微笑んで、頬を包み込んでいた手を首へと滑らせて、彼を引き寄せる。
チュッと音を鳴らして、あなたにキスを届けるよ。
愛してくれるなら、どうされたって構わない……
彼も俺を熱い潤んだ瞳で、真っ直ぐ見つめてくれる。
コツンと額と額をくっつけて、二人で笑いあった。
「飛雄、好き……
俺の全てを受け入れて」
「もちろん」
もう一度強く抱きしめあって、俺達は熱く
深い深いキスを何度も交わした……
ともだちにシェアしよう!