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第88話
甘く耳元で囁かれ、ドキドキが倍増する。
「み、耳元で喋らないで下さい!!」
「フフフ、飛雄耳弱いの?」
またそう囁いてフーッと息を吹き掛けられ、くすぐったくてゾワゾワする。
「やっ、やめ!」
「ビクビクしちゃって可愛い~♡
もっと可愛いとこ見たいな」
意地悪そうに笑って、今度は耳をカプリと甘噛みされた。
たぶん耳は弱くないと思うけど、さすがにこんなことされたら我慢出来ない。
お腹に回された腕を引っ張って必死に逃げようとするが、何度も甘噛みされてしまい、ビクビクと身体が反応して上手く力が入らない。
「あ……や、及川さ……や、めて……」
「飛雄が可愛すぎるから止められない。
でも、及川さんの匂いでムラムラしたって言ってくれたら、止めてあげるかもね」
そんな恥ずかしいこと言いたくない。
でもこのまま続けられたら、本当に我慢出来なくなる。
朝練もあるし……
もう、言うしかない!
「お、及川さんの匂いで、その…………む、ムラムラしまし、た……」
は、恥ずかしい……顔が熱くなる。
なんで俺がこんなこと言わないといけないんだ。
でもこれで離してもらえる。
なんて思ってたけど、その考えは甘かった。
「そんなにムラムラしちゃったんだ?
飛雄、及川さんの匂い大好きなんだね。
俺も飛雄の匂い嗅いでたらムラムラしてきちゃった。
ね、トビオちゃん、シよーよ♡」
「な、はぁ? あんたちゃんと言ったら絶対離してくれるって言っただろーが!」
「トビオちゃん、ちゃんと聞いてた?
俺はかもねって言ったんだよ。
か、も、ねって♪
誰も絶対なんて言ってないし~」
「ふざけんな! 離せボゲェ!!」
「コ~ラっ!
年上に向かってボケなんて言う悪い子には、お仕置きしないとね!」
「あ…ふ……や、やめっ……」
耳に舌を這わされて、その生温い感触に身体が反応してしまう。
朝練あるのにこんなのダメだ!!
俺は渾身の力を込めて、及川さんの腕の中でもがきまくる。
「及川さん止めて下さい!!」
必死にもがいていたその時、俺は足元に落ちていた固い何かを踏んで転けそうになった。
「ウワッ!!」
「と、飛雄!」
転けそうになった俺を、間一髪のところで及川さんが抱き留めてくれた。
「危なかったねー……トビオちゃん大丈夫?」
「う、ウス……すんません…」
ビックリした……何かツルツルしてて、固いもの踏んだな。
なんだったんだろう?
確かめるため足元を見ると、そこには昨日及川さんの不安を生み出した原因、
携帯が落ちていた……
携帯……
そう言えば昨日及川さんに払い除けられて、床に落ちたんだった。
ただ日向とメールしてただけだけど、それでも及川さんを不安にさせてしまった事が悲しい。
足元の携帯を見つめていると、俺を抱きしめていた腕の力が強まった。
顔だけ後ろを見ると、及川さんは眉間にシワを寄せて下の方に視線を向けていた。
彼も携帯の存在に気づいたようだ。
「あの……及川さん」
「さ、てと~そろそろ朝ご飯作ろうかな。
トビオちゃんはまだ時間あるし、もう少し寝とけば?」
俺が口を開いたのと同時に腕の力が緩んで、及川さんは笑いながら俺に背を見せて、キッチンへと向かおうとする。
声は笑ってるけど、まだ眉間にシワを寄せているのか?
また悲しそうな顔をしてるのか?
顔が見えないから、不安になる……
及川さんもまだ不安?
俺はあなたの不安を取り除いてあげたい。
キッチンへと行こうとする及川さんを追い掛けて、今度は俺が彼の背中に抱き付いた。
「!! と、トビオちゃん?!」
「及川さん、俺……
もう日向とメールしません!」
「え? 何言って……?」
「だって及川さんは、俺と日向がメールしてるの嫌なんでしょ?
俺は及川さんを不安にさせたくない。
悲しそうな顔して欲しくない……」
俺達が付き合いはじめてから、何故か及川さんはよく悲しそうな顔をする。
どうして?
お互い好きで、恋人同士一緒にいるんだから、普通は楽しくて、二人の間は笑顔で満ち溢れているもんなんじゃないのか?
楽しく笑っている時もあるけど、やっぱり及川さんは悲しそうな顔をすることが多くて……
付き合う前も思った……俺は及川さんの悲しそうな顔は大嫌いだ。
そんな顔、見たくない
だから……
「俺はもう日向とメールしません!」
俺の言葉に及川さんは大きく目を見開いた後、困ったように笑った。
「飛雄の言う通り、お前がチビちゃんと楽しそうにメールしてるの見るのは嫌だった。
なんで俺とのメールはあんなに長続きしないのにチビちゃんとはって……思ったけど……
でも、やっぱり部活の事とか、しなくちゃいけない話もあるだろ?
だから、メールをしないってのは無理だと思うよ……」
そう言って、また悲しそうな顔をする及川さん。
だからその顔が嫌なんだって!!
「だったら、1日3回までとかにします!
別に日向とメールしてーとか思わねーし。
それなら良いでしょ?」
「いや、気持ちは嬉しいけど、良いよそこまでしなくても……俺はもう気にしないから……」
気にしないとか言いながらきっと及川さんは、俺と日向がメールをしているのを見たらやっぱり嫌なんだろ?
素直に言えば良いのに……
「俺は日向より及川さんの方が大切なんです!
及川さんの悲しそうな顔見たくないから、だから
及川さん笑って下さい!!」
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