90 / 345
第89話
あの後も、及川さんの表情は晴れなくて……
家を出て別れ道、前までなら烏野まで送るって言うくせに、今日はすんなりと青城へと向かって行く及川さん。
烏野まで付いてきたらもう及川さんの家に行かないって、あの言葉がきいているのかもしれないけど。
でもやっぱり、手をふって立ち去った彼の顔は冴えなくて……
だから だから俺は……
「日向お前もう、あんまメールしてくんな」
「え? な、んで?」
そう言い放った時、日向はこれでもかって言うぐらい、それでなくても大きい目をさらに大きく見開いた。
「なんでって、お前がウゼーメール送ってくるからだろ。
お前とのメールめんどくせーんだよ」
まあ現に、昨日の日向とのメールはスゲーめんどかった。
ヤリチンとかムカつくこと言ってくるし。
友達とメールするのは楽しいけど、ヤリチンなんて言われたら腹立つしな……
それにもう、日向とのメールで及川さんにあんな顔して欲しくない。
日向も別に、そんなに俺とメールなんてしたくもないだろ。
そう勝手に決めて、俺はカゴからボールを取り出した。
「つーことだからな。これでメールの話は終わりだ。
練習始めるぞ日向!」
「……ぃ……だ」
これでこの話は終わると思っていたが、日向は俯いて小さな聞き取れない声を出した。
「あ? んだよ? はっきり言えよ」
いつもギャーギャーウザいぐらいデケー声だしてるくせに、何だよ今の声は?
俺はまだ俯いたままの日向に、ため息を吐きながら近付いた。
上がらないオレンジ頭に手を置いたその時、突然日向が勢い良く頭を上げて俺の手を掴んできた。
「嫌だ! 俺はお前と沢山メールしてぇ!
なのに、なんでそんなめんどくさいとか嫌なこと言うんだよ!」
「う、うっせーぞ日向……
また騒いだら澤村さんに怒られっぞ。
別にメールなんてしなくてもいーだろ?」
「俺にとってお前とのメールは、大切なことなんだよ!
それなのに……あんまりするなとか……」
また俯いて俺の手を強く握ってくる日向に、首を傾げることしか出来ない。
「大切って……何言ってんだお前?」
「も、もしかして、大王様に俺とはもうメールすんなって言われたのか?」
日向の言葉に思わず動揺してしまった。
だって、少なからず当たっていたから。
メールするなとは言われてないけど、でも及川さんが悲しむからもうしたくなくて……
なんて言い返して良いか分からず、俺はただ目を泳がすことしか出来ない。
そんな俺を強い眼差しで睨んでくる日向。
「やっぱり、大王様になんか言われたからそんなこと言ってきたんだな……
そーか…………分かった……」
え? 分かった?
さっきまでなんでかムキになってたくせに、突然アッサリ納得した日向を不思議に思いながらも、
俺は安堵のため息を吐いた。
「そうか? 分かったならいーけどよ……
じゃあ、練習すっぞ!」
「おう…………」
そう小さく返事をしてコートの中に入っていく日向を、俺はまた首を傾げながら追い掛けた。
ともだちにシェアしよう!