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第90話

「あれ日向? 今日はなんか用事でもあるの?」 午後練終了後 俺は急いで着替えを済ませて、校門前で及川さんを待つ。 そして意地悪い笑みを浮かべ、隣に立つ月島。 そう、ここまではいつも通りなのだが…… いつもは月島と一緒に何故か日向も及川さんを待っているのに、今日は俺達の横を通り過ぎて行く日向。 そんな日向に月島が、不思議そうな顔をして声を掛けた。 「ちょっと大王様と二人で話がしたいから、青城まで行ってくる!」 「は? 何言ってんの? 二人で話がしたいって……もうすぐ大王様ここに来るのに、なんでわざわざ青城に行くの?」 「早く話したいんだよ! 大王様が来るまで待ってられないんだ!!」 そう大きな声を出して、押していた自転車に跨がる日向を慌てて止めようとしたが、やはりスピードに勝てずどんどん遠ざかって行く。 話って、もしかしてメールの事か? それってなんかヤバくないか? いや本当にヤバい! 二人がメールの話をする前に、早く止めねーと!! 「おい!! 待てゴラ日向ぁ!!」 「あ、ちょっ、王様!」 俺は全力疾走して、日向を追い掛けた。 自転車にだって、ぜってー負けねぇ! 「ハァ、ハァハァ、ゼェ、ハァ、ハァゼェハァ…… 日向……テメー、待てって言ってんだろ!」 やっぱり着くまで追い付くことが出来なかったことに悔しさを感じながら、青城の校門前で立ち尽くす日向に声を掛けた。 それに返事をせず、ある一点を見つめる日向の視線の先に自分も目線を向けた。 そこには、校舎から校門へと続く道の真ん中に、大きな人集り出来ていた。 なんだあれ? 女ばっかだな。 でも、その女の集りの中に1つだけ、飛び抜けて背の高い頭が中心に存在していた。 まさかあれって、及川さん? 遠くて良く見えないけど、女子達の黄色い声に混じった聞き慣れた、愛しい人の美声が耳に入ってきた。 「及川く~ん! 部活お疲れ様♡ この後、一緒に遊ばない?」 「恵子ちゃんも部活お疲れ様~ あー、この後俺、行くとこが──」 「及川くんっ! 私とも遊ぼ!」 「愛ちゃんゴメンね。この後行くとこあるんだ」 「徹くんそんなこと言って、最近全然遊んでくれないじゃん!」 「そーそー、久し振りにカラオケ行こっ!」 「でも、この後は用事があるんだ、ゴメンね……」 「だーめぇ~~~~! 今日こそは絶対付き合ってくれなきゃおこだよ!!」 「え~~、おこなの!? 困ったな……」 「ねぇ~~美結とも遊ぼ~よ~!」 「う~ん、でもね……」 「あの、あのっ! 及川先輩っ! わっ、私ともっ!」 「及川先輩! ちょっとお話があるんです! 聞いてください!」 「わっ、私もっ!」 「えっ……いや、俺はこれから……」 「ちょっと! あんた達うるさいわよ。 徹くんが困ってるでしょ? 徹くんは皆のよ!」 目を凝らしてよく見ると、女子が及川さんの腕をグイグイ引っ張っているのが見えた。 他の女子達も彼の体に触ったりしている。 気安く触るな…… 及川さんに触って良いのは、恋人である俺だけだ…… 俺だけ…… 俺だけ…………じゃ、ないよな…… 確かに俺は恋人だけど、別に他の人が及川さんに触れても良いんだよな…… 人気者な彼を独り占めにするなんて、そんなの許されることじゃないのかもしれない。 それでもやっぱり、独占したくて…… 俺だけが彼の特別でありたい 俺だけが彼に触れていたい 我が儘だって分かってるけど…… 分かってたけど及川さんはやっぱり、すごいモテるんだな…… 女子達に囲まれる及川さんを、なんだかとても遠くに感じた。 ボーッと騒がしい光景を、どうすることも出来ずに眺めていると、突然視界が温かい何かに遮られて真っ暗になった。 「オワッッ! な、なんだ??」 慌ててその温もりを掴んで引き剥がし、勢い良く振り返った。 そこには俺達を追いかけてきたのか、不機嫌そうな顔をした月島が立っていた。 立ち尽くして人集りを見つめていた日向も、俺の声で月島に気付いたようだ。 「な、なんだよ月島……」 「なんだよじゃないでしょ。 大王様は女子達とお取り込み中みたいだし、邪魔しちゃあ悪いから僕達はさっさと帰ろうよ」 めんどくさそうな口調で言ってから、俺の手を引いて歩き出す。 邪魔しちゃあって……及川さんの恋人は俺なのに、女子達に彼を譲らないといけないのか? どんどん遠ざかって行く及川さんの姿に寂しさを覚えて、俺は必死にその場に踏み止まろうとした。 「つ、月島待てよ! 俺は及川さんと……」 「そんな顔してる君を、おいて行くことなんて出来ない」 そんな顔って…… きっと今俺は、月島にそんな顔と言わせてしまうほど情けない顔をしているんだろーな…… カッコ悪い顔を及川さんに見られたくないし、月島の言う通り帰った方が良いのか? なんて考えながら月島に引っ張られて歩いていると、 「あ、とびお!」 後ろから呼び掛けられた。 この声は……!

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