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第91話

笑顔で手をふりながら、新藤さんがこちらに近付いてきた。 今この人に会いたくなかった。 今じゃなくても会いたくないけど。 この人は突然俺にキスをしてきたから、また変なことしてくるんじゃないかと警戒してしまう。 身構えた俺に気付いたのか新藤さんが、さっきまでのニコヤカな笑顔を苦笑いに変えた。 「とびお~~顔こわ~い! 私ず~っととびおと話したかったのに、そんな顔されたら悲しーじゃん!」 困った笑みを浮かべて、俺の肩をポンポン叩いてくる。 あんまり触らないでほしい…… 俺は笑うことが出来ずに、新藤さんと目が合わないよう逸らしていると、日向が俺の肩におかれた手を掴んだ。 「あの、俺達そろそろ帰るんで、この手離してください!」 強めの口調の日向に、新藤さんは何故か思いっきり口角を上げた。 その笑みの意味は何なのだろう? 「う~~~~ん、君はとびおに触れてほしくないんだろーけど、私はちょっととびおと話したいことがあるんだよね。 だからさとびお、私と一緒に来てくれない? 大事な話があるんだ」 意味ありげな笑みを浮かべたまま、新藤さんは日向から俺に目線をうつしてくる。 大事な話? 出来れば話したくないし、一緒にも行きたくない。 どう返事して良いか分からず困惑していると、今まで黙っていた月島が、いつもの意地悪い顔で日向の襟首を掴んで引っ張った。 「ウギャッ! イテーよ月島、放せ!」 「あーハイハイ、うるさいよ日向。 大事な話があるって言うんだから邪魔しちゃいけないでしょ。僕達は帰ろうよ。 じゃあ、お二人さんごゆっくり~」 意地悪い笑顔でそう言って、日向を猫掴みしたまま引きずって行く月島。 「おい月島! あの人と影山を二人っきりにしてもいーのかよ!? お前はそれで良いのか?」 「うるさいって言ってるでしょ。 それで良いの。あの人は大丈夫だから」 「何が大丈夫なんだよ!!」 言い合いしながらどんどん遠ざかって行く二人。 えっ! 帰るのかよ! 出来ればこの人と二人っきりになりたくないのに! 及川さんと二人っきりになりたいと思ってる時はずっと居るくせに、一緒に居てほしい時はさっさと帰るのかよ。 なんなんだよアイツら! 「じゃあ、月島くんのお言葉に甘えて、ゆっくり話そーよ!」 「う、ウス…………」 逃げ道は用意されてないみたいだ。 ……………… 俺達は青城近くの喫茶店入った。 取り敢えず飲み物を頼もうと言い、新藤さんはアイスティーを頼んでいた。 それの後に同じのをと言っておく。 俺はメニュー表のミルクという文字に心奪われそうになったが、話が終わったらすぐ逃げるつもりだから好きなものを頼むのはもったいない。 二つのアイスティーが運ばれてきて、新藤さんが一口飲んでから口を開いた。 「やっぱり青城に居たのって、徹を待ってたんでしょ?」 「え……あ、ハイ」 新藤さんの口から徹という言葉が出てきて、思わず顔を歪めてしまう。 元カノだから徹と呼ぶのは仕方ないことかもしれないが、もう別れたんだから止めてほしい。 「徹モテるからすごい女子達に囲まれてたねぇー! いつもは女子達に見つからないようコッソリ青城を出てるけど、今日は見つかってたね」 そうっすねとサラリと返事をしながら、彼女の言葉に眉をひそめる。 いつもはって……それって及川さんをいつも見てるってことか? もう別れたのに、どうして? いやそれも気になるけど、そんなことより早く本題に入って、話を終わらせたい。 「あ、あの、ところで大事な話とは……?」 「……うん。とびおはさ……徹のこと本気なの?」 「え?」

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