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第92話
どうしてそんな質問を?
及川さんのこと本気……そうだよ、俺は及川さんのこと本気で、出会った時からずっとずっと好きだ。
本気だ
でも思ったことをそのまま口に出すのが恥ずかしくて、俺は黙ったまま彼女の質問の真意を探る。
そんな俺にどう思ったのか新藤さんは、小さく微笑んでからこちらを覗き込んできた。
なんだ、何が言いたいんだ?
「私、とびおのこと好みかもとか言ってキスしたよね?
あれ、どーしてだと思う?」
「……わ、分かりません」
そんなの分かるわけないだろ……
会ったその日に俺のこと好みとか言って、キスまでしてくるような人の気持ちなんて理解出来ない。
会ったばっかだぞ? それなのにキスするとか、信じられない。
「それはね……私は本気だからだよ」
「本気?」
口角を上げて真っ直ぐこちらを見つめてくる。
本気って、俺のこと本気で好きとかか?
それはやっぱりおかしい。
俺のことろくに知りもしないで、何言ってんだ。
「徹はね、とびおのこと本当に本気なんだって分かる。
私と付き合ってる時も、あなたに似た男の人を目で追ってるの見たことあるの。
なんで男なんかを見るのって、不思議だった。
いつも話してる時は笑顔だけど、どことなしか上の空だった。
そして、寝ながら嬉しそうな顔して笑って、とびおって呼ぶ徹を見た時……
徹を好きになって付き合ってもらえたあの時より、デートしてる時よりもずっと
すごくドキドキした……
私のことも、そんな嬉しそうな顔で見てほしい、
愛しそうな声で名前呼んでほしいって思ったの」
それって……
「でも、徹の頭の中はとびおでいっぱいって分かったから。
もう私のことなんて見てくれないって分かってる。
でもそれでも、私のこと少しで良い、見てほしい。
諦められない……本気だから」
「新藤、さん……」
新藤さんがさっきまでの笑顔を消して、真剣な強い眼差しで見つめてくる。
そんな彼女を見ていることが何故か息苦しく感じて、思わず目を逸らしてしまった。
「ゴメンね……とびおのこと利用したんだ。
どんな最低な奴だって思われても、徹の心の中に在り続けたい。
少しでもあの綺麗な瞳に私をうつしてほしい。
私、またとびおのこと利用するから」
強い口調でそう言ってから、新藤さんは立ち去って行った。
新藤さんも、まだ及川さんが好き……
俺にキスすることで
態と及川さんのライバルになり悪役を演じて、もう一度彼に自分を意識してもらおうとするとは……
そんなので、彼女は本当に満足なのか?
彼は本当にモテすぎて、不安になる。
顔がカッコ良くて、人気者で明るく、誰とでもすぐ仲良くなり、輝いていて眩しい。
俺とは正反対で、だからこそ愛しい。
そんな人だからこそ、誰もが彼に惹かれていく。
だから、新藤さんが俺のこと好みだって言った時、良かったって思った。
モテすぎる彼のことを、好きだと言う人が一人でも減れば、少しは安心出来ると思ったから……
でも……新藤さんもまだ及川さんが好きで……
一人でも減れば良いと思ったけど、結局減らなかった。
皆が彼に夢中になる……俺だけで良いのに
喫茶店を出て、虚ろな気持ちで歩く。
フラフラ歩いていると、ポケットに入れていた携帯が震えた。
《トビオちゃん、まだ部活してんの?
ホントにバレーバカだねww
まあ、そんなとこも好きなんだけどね♡
今烏野に迎えに来てるよ!
早く出て来てよ! 及川さん大変なんだよ!》
ずっと頭の中を支配している人、及川さんからのメール。
何が大変なんだ?
分からないけど、及川さんが俺のために烏野で待ってる。
まだグチャグチャで悩みは消えないけど、それでも大好きな人が俺のためだけに待ってくれている。
早く戻らないと!
俺は急いで烏野へと走った。
「ハァ、ハァハァ、ハァ…ハァ……及川さん……」
校門前、愛しい人が俺のために待ってくれていた。
でも……そこには……
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