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第96話
俺だけが、及川さんを好きになれたら良いのに……
「及川さん……」
俺のために烏野に来てくれた及川さんの傍へ、早く駆け寄りたかった。
でも、彼はまた女子達に囲まれていて。
青城の女子も、烏野の女子も、
そして、新藤さんも……
皆、及川さんに夢中で、彼のことが好きで……
及川さんは俺のことが一番だって言ってくれる。
ちゃんと俺のこと好きなんだって、実感出来るほどの愛を沢山注いでくれる。
分かってるけど、でも、あんな風に囲まれてる彼を目の当たりにしてしまったら、不安で潰されて自信が持てないんだ……
怖い……
心変わりした及川さんが俺じゃない別の人を選んで、捨てられる未来がきてしまうんじゃないかって
考えれば考えるほど、不安で怖くて……
及川さんが待ってくれているのに気が付いたら俺は、踵を返して来た道を逆戻りしていた。
早く、及川さんのとこに行かないといけないのに、何してんだ俺
早足で進んでいると、前方に誰かが立っていた。
それが誰なのか視界が滲んでいて、よく見えない。
「影山……おいで……」
この声はいつも聞きなれた、日向の声だ。
「ひ、なた……」
声に引き寄せられるように導かれ、滲んだ世界をゆっくり歩く。
日向はそっと俺の手を握って、歩き出した。
その手はとても温かくて、冷えていく俺の心を支えてくれた。
涙が零れないよう、唇を噛んで必死に我慢する。
日向は人気のない公園に俺を連れてきて、突然抱きしめてきた。
「ひ、日向!!」
「泣けよ影山、思いっきり!
ここには俺しかいないから、我慢しないで思いっきり泣いても良いんだ!」
日向がいるから、泣けないんだよボゲェ。
なんてそう思っていたけど、日向が優しく頭を撫でてくるから、泣きたくないのにどんどん涙が溢れて止まらなくなった。
「うっ……く………日向……」
「うん、そーだよ影山……我慢しなくて良いんだ。
俺に遠慮はいらない。
だって、俺とお前の仲だろ」
「うぅ……は…う……ぅっ」
そう言って髪を撫で続けてくれる日向の温もりに、崩れそうだった感情を繋ぎ止めることが出来た。
すごく温かくて、安心する
だからちゃんと不安を言葉に、日向に聞いてもらおうと思えた。
「大丈夫だよ影山、大丈夫だよ……」
「くっ……ふ、不安なんだ、お、いかわさ、ん、すげぇモ、テるから……
うっぅ、好きす、ぎて、不安なん、だ……このま、ま捨てられる、んじゃな、いかって…怖くて……
好きだから、怖くて……」
「影山……」
くそ……涙が止まらねぇ… 情けない、こんなに泣くなんて
今も優しく包み込んでくれる温もりに安心しきった俺は、そっと身を任せようと日向の肩に顔をうずめたその時、
日向が俺の頬を両手で包んだ。
「日向……?」
「やっぱり大王様は影山を泣かせてばっかだな。
許せねぇ……
お前を泣かせて幸せに出来ない大王様は、影山の傍に居る資格なんてない……
俺は、俺だったら……お前を絶対泣かせたりしない!」
日向の大きく張り上げられた声に目を見開いた次の瞬間にはもう、俺の唇は日向のそれに塞がれていた。
「俺はお前を絶対泣かせないよ。
影山、俺を選んでよ……
好きだ お前が好きだ、影山!!」
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