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第100話
俺の肩に手を乗せて、こちらに笑みを見せた岩泉さんが立っていた。
「ハザマス、岩泉さん……」
岩泉さんに顔見られたくなくて、失礼だが目を逸らしてあいさつする。
そんな態度が気に入らなかったのか、岩泉さんが手を伸ばしてきて、俺の頬をギュイッとつまんで引っ張った。
「うがっ! イテテ、岩泉さんイテーッス!!」
「なら、ちゃんと人の目を見てあいさつしろ!
お前らしくないぞ!」
「……てーー……すんません…」
謝ると手を離してくれた。
頬を擦りながら岩泉さんを見ると、こちらをギロリと睨んできた。
「あ、あの……岩泉さん?」
「お前がそんな態度とるなんて、昨日及川となんかあったのか?」
「な、なんでそー思うんすか!?」
「年上に礼儀正しいお前が、俺にそんな態度とる時は、
及川と何かあって、俺と顔合わせづらいんだろーと思ったんだよ!」
「う……んぬん……」
鋭い……さすが岩泉さん。この人には絶対勝てないだろーなと改めてそう思った。
でも、本当のことはやっぱり言えない。
「その……言いづらいっつーか、言いたくないんです。
すんません……」
上手い言い訳が思い付かず、思ったことをそのまま口にした。
そんな俺に岩泉さんはまたギロッと睨んでから、ガシガシと頭をかいた。
「あーー、どーせクソ川が、余計なことしたんだろ
あのバカ……
言いたくねーんなら無理に聞くつもりはねーよ。
だけど、俺がお前らのこと、その……だから、
心配してるっつーことだけは覚えとけよ。
何かあったら、いつでも話聞いてやっからな!」
恥ずかしそうに、でも優しい目をしてそう言ってくれる岩泉さんは、本当に本当に良い人なんだなってまた改めてそう思った。
「あざす!」
「おう! ん? つーか、お前……なんか顔赤くね?」
なんて言ってジーっと俺の顔を凝視してくる。
今はそんなに頭痛くねーのに、まだ顔赤いのか?
「お前、熱あるんじゃないのか? どれ……」
心配顔で額の方へ伸びてきた手から、一歩下がった。
「だ、大丈夫ですよ!」
「いや、大丈夫じゃねーかもしれねーだろ!
昨日雨降ったし、なんか寒かったから風邪引いたんじゃねーのか??
良いからじっとしろ!」
「本当に大丈夫です!
てゆーか、なんか岩泉さん、お母さんみたいっすね……」
岩泉さんの手から逃げつつ思ったことをそのまま言うと、すごい真っ赤になって思いっきり睨まれた。
「お母さんじゃねぇ! せめてお父さんって言えよボゲェ!」
「ハハ……すんません」
「笑ってんじゃねぇボゲェ!!
俺は心配してるって言ってんだろ!」
まだ赤面のまま、それでも真剣な目で見つめてくる岩泉さん。
だからこっちもちゃんとしなくちゃな。
「本当に大丈夫ですから。
それでその……及川さんには、今話したことは言わないでください……」
「余計なことはもちろん言わねーよ……
でも、アイツはお前のこと本当に本気で好きなんだって分かるから。
だから、お前らのために言わなくちゃいけないって思ったことは、言うつもりだ」
本気で好き……
その言葉に胸が締め付けられるような、でもむず痒いような、そんな感覚がした。
分かってる、でもやっぱり不安は消えなくて。
「で、でも、今話したことは言わないでください」
「いや、言うかもな」
「どうしてっすか!? やめてください岩泉さん!!」
そんな言葉に慌てて俺は、思わず岩泉さんの腕を掴んだ。
岩泉さんは目を大きく見開いて、ビックリしたような顔をした。
「何をそんなに焦ってんだお前!
らしくねーぞ!」
「あ……すんません……
とにかく俺は風邪じゃねーし、大丈夫なんで……
じゃあ、失礼します」
「……影山」
一礼して、俺は急いで岩泉さんに背を向けた。
どうすればいいのか分からなすぎて、もう頭の中全てがこんがらがっていて、
何もかもがグチャグチャになっていた。
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