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第101話

「影山お前、顔赤いぞ。風邪?」 体育館に入って一番始めに言われた言葉は、やっぱりこれだった。 そして俺が言う言葉は決まっている。 「いや、風邪じゃねーっす。大丈夫です」 「でも、なんかフラフラしてね?」 「フラフラしてねーっす」 「そうかぁ? でもやっぱ赤いぞ」 菅原さん達とそんな話をしていたら、突然俺と菅原さん達の間に勢い良く何かが入り込んできて、腕を強く引かれ前屈みになった。 「おわっ!」 気がついたらすぐ目の前に、日向の顔のどアップがあった。 額と額がコツンとぶつかっている状態だ。 「わっ! 日向かぁ~……ビックリした」 「突然出てくるなよ日向ぁ~」 皆は笑ってるけど、俺は全然笑えない。 昨日のこともあるし、何より日向がまだ額をくっつけたまま真剣な顔をして動かないから。 それがなんか恥ずかしい 「な、なな、日向?」 「影山……おでこ熱いぞ。 やっぱりお前風邪引いてるよ。 保健室行くか、帰った方が良いぞ!」 そう言って俺の頬を、両手で包み込んでくる。 「顔もアッチイぞ!」 近い、近すぎる! 平常心、平常心……って、無理だボゲェーー!! 「か、風邪じゃねーーーーって言ってんだろボゲェ! 早く離れろぉ!!」 近いし恥ずかしいし、昨日のこともあるしで、俺はもう頭の中がパンクしそーだった。 思わず日向の頭を殴り飛ばしてしまった。 「いってええぇぇえぇぇぇええぇえぇぇっっっ!! イテーだろバカ! 心配してんだぞ俺は!」 「そ、そんなのいらねーよ! さっさとレシーブ練するぞゴラ!!」 たけってから日向の首根っこを掴んで、コートの中に入る。 引っ張られながら日向が、悲しそうな声を出してくる。 「か、影山! 本当に大丈夫なのか? お前にもしものことがあったら俺……心配だよ。 なぁ影山、やっぱ休んだ方が──いって!」 「うるせーぞ! バレーすっぞ……」 心配してくれる日向にどう返事をすれば良いか分からなくて、俺は戸惑いながら日向の頭をまた殴った。 「影山……」 練習中ずっと日向は俺のことを心配そうに、悲しそうな目でずっと見ていた。 そんな目すんなよ…… どーすりゃ良いのか、分かんねぇ ……………………… 「あーーーー、ヤベェ……」 教室の席に座って俺は、クラクラガンガンと痛みだした頭を押さえながら机に伏せた。 俺……皆の言う通り本当に風邪だったな。 なんて、まるで人事のように心中で呟く。 最初はちょっと頭がボーッとして変だなって思うぐらいだったのに、朝練の途中からだんだんと痛みだして今この有り様だ。 「影山の奴また寝てるよ~」 「部活で疲れてるんだよ」 横を通り過ぎていくクラスメート達は、頭痛で苦しむ俺を心配する様子はない。 いつも授業中に寝ているから、いつものことだと思っているのだろう。 先生も春らへんは注意してきたけど、今は呆れてるのか何も言ってこねーし。 まあ、今のとこ頭痛だけだし、こうやって寝てればその内良くなるだろ…… ピロン♪ 鞄に入れていた携帯がメールを受信した音で、目が覚めた。 「んあ?」 なんか周りが騒がしい……ずっと寝てたな、今何時だ? 教室の時計を見ると、もう昼休みになっていた。 ……頭はまだ痛いままだった。 少し喉も痛くなった気がする。 ダルくてスムーズに動かせない手で、なんとか携帯を取る。 ……もしかして及川さん? そう思っただけで、頭と一緒に胸も苦しくなる。 及川さん……怒ってるかな? ドキドキしながら携帯を開くと、相手は岩泉さんだった。 あ……及川さんじゃなかった…… なんて言われるか怖いと思ってたのに、違うと分かった途端、こんなに寂しいと思ってしまうなんて…… 本当、矛盾してるな…… 《体の調子はどうだ? 風邪ひどくなってないか?》 失礼な態度をとったのに心配してくれるなんて、本当優しいなあの人。 《大丈夫です。心配いりません》 岩泉さんに本当のこと行ったら、もしかしたら及川さんに言ってしまうかもしれねーし。 及川さんに心配かけたくない…… だからこう言うしかなかった。 頭痛と喉痛いけど、また寝てたら良くなるよな…… だから、心配はいりません…………

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