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第104話

及川side 飛雄大丈夫かな? 風邪が酷くなって、倒れて怪我とかしてないかな…… 俺は今、早々と部活を切り上げて、烏野前で飛雄を待っている。 もしかしてもう、早退したとか言わないよね? だったらここじゃなくて、飛雄ン家に行った方が良いかな? なんてあれこれ考えていたら、学校の方からものすんごい顔をしたチビちゃんが、校門へ向かって走って来た。 「うおぉおおおおおぉぉおぉおおおぉぉ!!!!」 「うへぁっ!! チビちゃん!」 その姿をよく見たら、チビちゃんがぐったりとした飛雄をおんぶしている。 なんでチビちゃんが飛雄をおんぶしてんの? あ、そうか、もしかしたら飛雄が風邪で倒れて、チビちゃんが家まで送ろうとしてるのか?! だったらそれは彼氏である俺の役目だ! 「ち、チビちゃん! 飛雄をこっちに!!」 そう言って手を伸ばしたけどチビちゃんはこちらをチラリと見た後、何事もなかったかのように顔を背けて、立ち止まらずそのまま俺の横を走り抜けていく。 「ちょっとチビちゃん待って! 待てよ!!」 なんで無視するんだよ!? 飛雄は俺の恋人なんだよ なのになんで連れて行こうとするんだ? 返してよ!! 俺は急いで追い掛けて、チビちゃんの腕を掴んで引き留めた。 「大王様離してください! 影山が落ちる!」 「だったら早く飛雄をこっちに渡しなよ!」 「嫌だ!」 「なんでさ! 飛雄は俺の恋人だよ!!」 鋭い目でこちらを睨み付けて飛雄を離さないチビちゃんに、俺も睨み返してグッと手に力を込めた。 痛そうに顔をしかめてるけど、止めてなんかやらない! 飛雄は渡さない 「いっ……離せよ! 何が恋人だ! 影山はあんたのせいで泣いてたんだ! 恋人にあんな顔させるなんて…… お前なんかに影山は絶対渡さない!!」 え? 飛雄が泣いてた……? どおして? 俺のせいで? なんで? 俺何か悪いこと、飛雄を悲しませるようなことした? 分からない……でも、チビちゃんが嘘をついているようにも見えない。 きっと自分が気が付かないうちに、飛雄を傷付けてしまっていたのかもしれない。 「影山スゲー泣いてた…… 悲しませて泣かせるような奴に影山を渡したくない。 俺だったら泣かせたりしない。 影山を幸せに出来るのは俺だけだ!!」 大きな声でそう言い放ってからチビちゃんは、俺の手を強く払い除けた。 真剣な眼差しで俺を真っ直ぐに睨み付けてくる。 飛雄のこと本気なんだって今の言葉ではっきり分かった…… いや、 前から知っていて、そして再確認させられた。 ねぇ飛雄、 俺は気が付かないうちに飛雄を傷付けていた。 それで飛雄を沢山悲しませて、泣かせてしまったかもしれないね。 言う通り、チビちゃんの方が飛雄を幸せに出来るのかもしれない。 でも、それでも俺は…… 「飛雄……」 俺はそっと飛雄へと手を伸ばして、触れようとした。 そんな俺の行動に気付いたチビちゃんが、サッと俺から飛雄を遠ざけるように身を翻した。 「影山に触るな!!」 俺からどんどん遠ざかっていく飛雄 でも俺は、今すぐ飛雄に触れたい 飛雄、どうか触れることを許して…… 「飛雄!」 追い掛けて、思いっきり手を伸ばして、飛雄の手を握った。 熱い、熱い飛雄の手…… 強く、ギュッと掴んで……離さない 「飛雄……ゴメンね」 そう呟いてから、愛しい手の甲にキスをした。 「ん…… お、いか、わ…さ……」 唇を離して顔を上げた時、飛雄が笑って小さな声で俺の名前を呼んだ。 眠っててもキスしたのが、俺だって分かってくれたんだ。 可愛く笑って、そんなに俺にキスされたのが嬉しかったの? 飛雄……眠りながらも、俺を選んでくれたんだね 「影山……」 チビちゃんが悲しそうな顔で、俯いた。 そんなチビちゃんへ俺は手を差し出す。 「チビちゃん、ここまで飛雄を連れてきてくれてありがとう。 後は俺が飛雄をおんぶするよ」 そう言うとチビちゃんはしゃがんで、飛雄をおろした。 真っ赤な顔をして、苦しそうな呼吸を繰り返す飛雄を受け取って抱き上げる。 ゴメンね俺の我が儘で時間かけて……早く休ませてあげるからね。 「チビちゃん、ありがとう」 もう一度礼を言うと、チビちゃんはまた悲しそうな顔して、だけど真っ直ぐ俺を見つめてきた。 「影山が大王様の名前を呼んだから、仕方なく背負うのは任せるけど、 でもちゃんと影山を家まで送り届けないと、心配で気が済まねーから……」 「分かってるよ……もちろん帰れなんて言わないよ。 一緒に飛雄の家まで行こう」 チビちゃんが頷いたのを確認してから、俺は飛雄の家へと歩を進めた。

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