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第105話
及川side
俺の腕の中で苦しそうに呼吸を続ける飛雄。
身体もすごい熱い
でも表情は、どことなしか安らかな顔をしているように見えた。
俺が傍にいるから安心してるのかな
飛雄の家について、インターホンを押す。
すると家の中からパタパタと、スリッパで小走りするような足音が近づいてきた。
玄関の扉が開いて、明るい綺麗な笑顔で飛雄のお母さんが出てきた。
「ハ~~イ、あっ及川くん!
いらっしゃ~い、って飛雄!!」
俺の腕の中で真っ赤な顔して眠る飛雄に、大きく目を見開く飛雄のお母さん。
「飛雄風邪で倒れてしまって」
「えーーもぉ~~だから今日は休めって言ったのに!
ごめんなさいね及川くん。
あら? そちらは?」
そこで隣にいたチビちゃんに気付いたようで、飛雄のお母さんは不思議そうに首を傾げた。
「あっ! 俺、影山と同じ学校でバレーしてる日向翔陽っていいます!」
「あらあらまあ! 飛雄のお友達なのねぇ~」
「あ……ハイ」
友達と言う言葉に、横目で俺の顔を見ながら微妙そうな顔をするチビちゃん。
チビちゃんの前で友達だって俺が言われたら、きっと同じ顔してしまうんだろうな……
そんなチビちゃんに気付かず、飛雄のお母さんは玄関の扉を大きく開いて俺達を招き入れた。
「二人ともごめんなさいね……
ついでで申し訳ないけど、飛雄を部屋まで運んでくれる?」
「もちろんそのつもりです」
その後のお母さんの動きはメチャクチャ速かった。
ベットに寝かせた飛雄の汗を素早く拭いて、パッパッとパジャマに着替えらせて、額に冷却シートを貼る。
俺達も少しは手伝ったけど、はっきり言ってお母さん一人でも平気そうだった。
さすが日本のお母ちゃん!
「二人ともありがとねぇ! 助かったわ!」
「ハハ……そーですか?」
「良かったです……」
全然役に立ってなかったと思うけど、飛雄のお母さんが嬉しそうだからいっか……
ベッド上で服を着替えらせたりしたのに、飛雄は目を覚まさず真っ赤な顔をして眠り続けている。
そんな飛雄を見ていたら、もう少し一緒に、傍に居てやりたくなる。
「あの、飛雄のお母さん……もう少し飛雄の傍にいても良いですか?」
また素早く服などを片付けている飛雄のお母さんに、そう聞いてみる。
するとお母さんは眠る飛雄と俺を交互に見て、どことなしか嬉しそうに口角を上げた。
「でも、あんまり長く居たら、風邪うつっちゃうかもよ?」
「良いですよ、飛雄の風邪なら」
「フフフ……
じゃあもう少し傍にいること許してあげちゃう!」
「ありがとうございます」
「あ、あの! 俺も影山の傍にいても良いですか?」
二人で微笑みあっていると、チビちゃんが慌てたようにズイッと前に身を乗り出して手を上げた。
「チビちゃんは風邪うつったらヤバイんじゃない?」
「だ、大丈夫です! 俺も影山の風邪ならうつっても良いです!
だから、影山の傍に居させてください!」
真剣そうな眼差しで真っ直ぐ飛雄のお母さんを見つめて懇願するチビちゃんに、お母さんは優しい笑みを浮かべた。
「飛雄は二人からこんなに愛されているのね……
なんだか私が嬉しくなっちゃった。
分かったわ、二人とも飛雄の傍に居てあげて」
そう微笑んでからお母さんは、二人分のお茶を持ってきてくれて、そっと部屋から出て行った。
真っ赤な顔で眠る飛雄にゆっくり近付いて、汗で濡れた頭を優しく撫でてやる。
その感触が気持ち良かったのか、飛雄が口をムズムズさせて笑ったのが見えて、俺も思わず笑みをこぼした。
ずっと触れていたくてしばらく飛雄の頭を撫で続けていたら、今まで黙っていたチビちゃんが唐突に口を開いた。
「大王様ってスゲーモテますよね」
「まあ、見ての通り、誰もが認める絶世の美男子だからね~
モテすぎて大変だよまったく!」
笑いながら返事して飛雄の頭を撫でていると、チビちゃんがすごいスピードで近付いてきて、動かしていた手を強く掴み上げた。
「自分で絶世の美男子とか言いやがって
だったら、その言い寄ってくる女子達の頭でも撫でてろよ!
影山に触んなって言っただろ!!」
俺の手を強く掴んだままくっきりと眉間にシワを寄せて、こちらの目を鋭く睨み付けてくる。
そんなチビちゃんの手を、自由な方の手で同じように掴み上げ返した。
握力なら誰にも負けないってほどのパワーがあるつもりだ。
チビちゃんは痛みに顔を歪めて、俺の手を放した。
でも、目線は逸らさず真っ直ぐ俺を見つめていた。
真剣な瞳のチビちゃんに、あんな返事をしたことを反省した。
俺も真っ直ぐにチビちゃんを見つめる。
「チビちゃんは誰かに告白されたことある?」
「……無いけど、でもされたとしても俺は本気で影山が好きだから、大王様みたいにヘラヘラしない。
絶対余所見せず、影山だけを見てる!」
「そうだね、確かに俺は前までふざけて近寄ってきた女の子達にヘラヘラと愛想を振り撒いていた。
その思わせ振りな態度で沢山の人達を傷付けて、本当に最低なことをしてたってつい最近気付いたんだ。
どうして気付けたんだと思う?」
「分かりません……」
俺の質問にまだ眉間にシワを寄せたまま、首を傾げるチビちゃん。
そんなチビちゃんに俺は穏やかな気持ちで笑った。
「今、本気で愛する人の傍にいるからだよ」
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