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第109話
及川side
『オーバーワークだつってんだろくさ川!!』
『臭くないよ岩ちゃん!』
『練習のしすぎで汗かきすぎて、クセーんだよボゲェ!!』
飛雄にスタメン奪われる!
そう焦った俺は毎日、練習練習に明け暮れていた。
時間ギリギリまでひたすら。
そのお陰でサーブの威力が上がったし、コントロールも上手くなった。
さすが及川さん!
でも俺がいつも時間ギリギリまで一心不乱に練習してるから、最近はよく先生や岩ちゃんに怒られることも増えた。
『オラッ! 帰っぞ!』
『えっ! まだいーでしょ。後もうちょっと』
『テメー、また殴られてーのか?』
岩ちゃんが殴るマネをしてきて、俺は慌てて身を屈めていると、あの忌々しい奴が笑顔でこちらに近付いてきた。
『及川さん! サーブ教えてください!』
ニコニコ笑って俺の傍に来る飛雄。
その笑顔はやっぱり可愛いと思うけど、コイツは俺の技を盗んでスタメンまでも奪おうとする最低な奴だ。
前まで別の3年のとこに行ってたくせに、俺のサーブの威力が上がったからまたそれも盗みに来たのか。
本当とんでもない奴だね!
『影山、お前まだ居たのか!
お前も早く──』
『誰がお前なんかに教えるか、バーーカ!
さっさと帰れよ!』
『……え? 及川さん?』
『及川?』
岩ちゃんの言葉をわざと遮って、あっかんべーをした俺に二人は驚いたような表情を浮かべた。
そりゃそーだろーね、前まで優しく教えてあげてたのに、突然冷たくしたんだもんね。
そんな俺に、岩ちゃんは苦笑いで俺の方を叩く。
『バカはねーだろ? お前影山と仲良かったのに、どーした?』
『別に……影山なんかと仲なんて良くないよ』
そう言うと飛雄は、あからさまに悲しそうな顔をした。
その顔に胸が痛む。
なんでこんなモヤモヤするんだ?
飛雄は俺を利用した最低なやつなのに……
俯いた飛雄に背を向けて、俺はボールをカゴに戻す。
『岩ちゃん、早く帰るんでしょ? 行くよ……』
『お、おお…… 影山も早く帰るんだぞ……』
『……はい……』
俺は早足で体育館を立ち去ろうとする。
出る瞬間
『……及川さん』
飛雄が悲しそうに小さく俺の名前を呼んだのが聞こえたけど、それを無視して体育館を後にする。
しばらく飛雄の悲しそうな声と、顔が頭から離れてくれなかった。
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