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第112話

及川side 体育館の床に倒れ込んだ俺の胸ぐらを掴んで、岩ちゃんがググッと顔を近づけてきた。 『テメーは何1人で焦ってんだボゲェ! 影山がすごかろうが、監督が認めようがそんなの関係ねぇ!! 影山が天才でなんでもすぐ出来る? それでもやっぱり経験の差があるだろ。 お前が今まで磨きあげてきたサーブは、形は真似出来てもあのすごい威力、スピードまでは真似出来ねーよ! お前は今まで頑張って来たんだ、それは俺が一番よく分かってる。 お前は大丈夫だ。もっと自信もてよ!』  大きく、胸の中に響くほどの強声 そして、岩ちゃんには似つかわしくないほどの、穏やかな優しい声に視界が滲む。 そうだ、俺が今まで積み重ねてきた努力は、絶対無駄なんかにならない。 飛雄は天才かもしれないけど、俺だって今まで必死に頑張って、あのサーブを磨いてきたんだ。 ちょっとやそっとじゃ真似出来ないはずだ。 『それに、バレーはコートに6人だ。 相手が天才1年だろーがなんだろうが、6人で強い方が強いんだ。 皆お前を認めてるよ。北一の正セッターはお前なんだ。 ……1人で頑張ろうとすんな……俺達がいる。 だから、お前は俺達と一緒に強くなろうぜ。 天才にも誰にも、負けないように!』 そうだね……俺は1人じゃない、岩ちゃんや仲間がいる。 皆がいればセッターは、俺はもっと強くなれる。 『だから無理すんな! 無理して倒れたら強くなれねーし、その間にスタメン奪われるかもしれねぇだろ!』 『うん! ありがとう岩ちゃん! 俺もう弱音はかない。俺だって頑張ってきたんだ。 絶対誰にも負けないよ! 岩ちゃん、一緒に強くなっていこうね!!』 鼻血を拭いながら岩ちゃんを真っ直ぐ見つめて、満面の笑みを見せる。 岩ちゃんも笑って、俺の手を引っ張って立たせてくれた。 『オラ! お前のせいで大分遅くなっただろーが! 早く帰るべ!』 『うん!』 岩ちゃんのお陰で、ずっと真っ黒に染まっていた心が軽く綺麗になった気がした。 本当にありがとう岩ちゃん! 俺達は笑顔で揃って、体育館から出ようと扉を開けた。 でもそこには、扉の前で涙を流しながら立ち尽くす飛雄の姿があった。 『か、影山!!』 『影山……お前聞い、てたのか……?』 飛雄は涙でぐちゃぐちゃになった顔を思いっきり拭ってから、バッと頭を下げた。 『すんません! お疲れっした、失礼します!!』 そして踵を返して、駆け出していった。 『影山!!』 『影山、聞いてたんだ……どーしよ岩ちゃん』 『とにかく、明日謝るしかねーだろ。 お前さっき殴ろうとしたし、どのみち謝んねーと……』 『うん……』 さっき軽く晴れた心が、またモヤモヤと重くなっていく。 飛雄のあんな涙、見たくなかった…… すごくモヤモヤして、苦しいよ

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