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第113話
及川side
話、全部聞かれてた……
飛雄泣いてた。
そりゃそうだよね。
アイツには絶対負けない 6人で強い方が強い スタメン奪われる……
この話はどう聞いても、飛雄が俺達の敵だと言ってるようなもんだ。
スタメン奪われそうだからセッターの俺にとっては敵みたいなもんだけど、それでも飛雄は同じバレー部の仲間なのに……
これって先輩として……ちょっと最低、だよな……
まさか聞かれてるとは思わなかった……
明日……飛雄とどう話せばいいんだろ?
こんなことをグルグルと考えていたら、あっという間に朝になってて、全然眠れなかった。
『なんでこの俺が影山なんかのせいで、寝不足にならないといけないの?』
飛雄が俺の目の前に現れてからずっとモヤモヤしっぱなしで、頭の中いつもぐちゃぐちゃだよ。
『ホントなんなんだよ影山……ムカつく……』
『ムカついてもいーので、サーブ教えてください』
『は? あっ、影山!』
朝練開始してからもずっと飛雄のことばかり考えていたら、いつの間にか飛雄が近くに立っていた。
昨日あんなに泣いてたのに、俺に話しかけてくるんだ。
謝らないといけないのは分かってたけど、それでも俺はまたいつものあの言葉を言ってしまう。
『嫌だよバーカ! べぇーーっ!』
『いーじゃないですかちょっとぐらい!』
『そのちょっとが嫌なの! なんで俺がお前なんかに教えないとならないのさ』
フンッといつも通り顔を背ける。
良かった普通に話せてるじゃん。心配して損した。
ホッとしながら横目で見ると、飛雄の反応はいつもとは違っていた。
悲しげな瞳で真っ直ぐ俺を見つめる飛雄。
平気そうに見えて、やっぱり違った
いつもとは違う飛雄に、俺の胸がズキッと痛んだ。
『あ……影、山』
『おーーい! 及川、影山、監督が集合だってよ』
『……ハイ』
『え、あ、うん』
飛雄へと手を伸ばそうとした俺に、3年のチームメイトが手招きをする。
飛雄は頷いてから、俺に背を向けて走っていく。
あーもー、なんで俺が飛雄なんかにこんなモヤモヤしないといけないの?
バカみたい……ほんとバカみたい
もう飛雄なんて気にしない、飛雄なんて……きら、い、だ……
そう思いながらもやっぱり心は晴れなくて、ずっと曇ったまま数日がたったある日の午後練終了後。
着替えを済ませた俺の耳に、ため息まじりの声が届く。
『おい影山! 起きろよおいっ!』
『え? どーしたの?』
『あ、及川さん……』
困り顔の金田一に近付くと、金田一は目を泳がせて眉を八の字にした。
『影山が寝ちゃって、起きないんです……』
足下を見ると飛雄がロッカーの前で座り込んで、眠りこけていた。
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