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第117話

及川side いつもの朝練。 でも今日はいつもと違っていて。 いや、いつもとなんの違いもない。 ただ俺が飛雄に恋をして、好きな人に会うことの出来る練習が特別ってだけ…… 『及川さん、ハザマス』 俺の中で芽生えた恋心に気付いてない飛雄が、普通に挨拶してくる。 いつもと変わらないってことは、昨日のことは何も知らないってことか…… まぁ、ずっと寝てたしね…… でも俺は違うよ…… 『おはよ、飛雄』 『え? 飛雄?』 前まで影山って呼ばれてたのに、突然飛雄って呼ばれたことでビックリしたように目を見開く飛雄。 その顔がなんとも言えないほど可愛かった。 『あ、あの……及川さん、飛雄って……?』 『なんなの? お前の名前飛雄じゃないの?』 『いや、飛雄っすけど……』 『そーでしょ、飛雄だろ? だったら飛雄って呼んでも良いでしょ?』 『え?』 『何? ダメなの?』 『い、いや! 飛雄で良いです! 飛雄って呼んでください!』 『そ? じゃあ、飛雄』 『ハイ!』 さっきまでビックリした顔してたのに、俺が改めて飛雄って呼ぶと嬉しそうに返事をする。 そんなお前が愛しい 俺に名前を呼ばれるのが、そんなに嬉しいの? 俺もお前の名前呼ぶの、なんかドキドキして嬉しいよ。 『あ、あのじゃあ及川さん、サー──……』 『嫌だねバーカ!』 『ムゥ……』 嬉しそうな顔から今度は、眉間にシワを寄せて頬を膨らます。 そんな顔も可愛い! 笑った顔も、ビックリした顔も、怒った顔もみんな可愛い。 色んな飛雄が見たいよ。 『なんなんすか及川さん……機嫌良いのかと思ったら、またそんな意地悪言って…… もういいっす! 勝手に見ときますから、どーぞ練習してください!』 『いや、気が散るから見ないでよ』 『俺のことは気にせずどーぞ!』 『メチャクチャ気になるんだけど……』 そう、好きだから気になる…… でも、あんなこと言ったけど、本当はずっと見ててほしいよ。 飛雄が現れてからモヤモヤ苦しかった部活が、恋したと気付いた途端こんなにドキドキ嬉しいものになるなんてな…… 『あ、あの! ちょっと良いですか?』 放課後になり 午後練終了後、俺は飛雄に帰ろうって声を掛けようとしていたその時、一人の女の子に呼ばれた。 まあ、これはいつものかな? 飛雄と帰りたいけど…… でもこの子と一緒に立ち去る姿を見せて、ちょっとは飛雄にもモヤモヤしてもらいたいな。 『うん、良いよ』 そんなことを考えながらもきっと、飛雄はモヤモヤなんてしないんだろーな。 小さくため息を吐きながら俺は、女の子と一緒に歩き出した。

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