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第119話
及川side
……飛雄……
俺は虚ろにフラフラと、階段を下りる。
初めて誰かを好きになった。
こんなにも誰かを想ってモヤモヤしたり、ドキドキして嬉しくなったのは初めてで……なんか楽しくて。
でもこの気持ちを、長く続けさせてはもらえなかった。
相手が男だったから……
ああ、どうしよ……それでもまだ好きだと思ってる自分がいる。
でも早く、早くこの想いを消さないと……
だって男が男に恋するのはあり得ない、気持ち悪いことだから。
『及川さん! 一緒に帰ろうと思って待ってました!』
靴箱で靴を履き替えて校門に差し掛かったところで、今一番聞きたくなかった声が俺の鼓膜を震わせる。
なんで? なんなんだよクソが!!
なんで待ってるんだよ!
もっと早く、女の子に呼び出される前だったら俺も……お前と……
ああ、 ダメだ……
『……一緒に帰っても良いですか?』
遠慮がちな飛雄の声を無視して、進む速度をあげる。
そんな俺の後ろを飛雄が、慌てたように付いてきた。
『付いて来るなよ……』
『俺、及川さんに冷たくされるの慣れてますから、気にせず歩いてください。
俺、及川さんとどうしても帰りたいんで……
勝手に付いていきます』
その言葉に、鼓動が速くなっていくのが分かった。
なんなのそれ? そんな期待させるようなこと言って、俺にどうされたいの?
なんて、俺に飛雄をどうにかする選択肢なんて存在していない。
女の子達と会う前だったら、どうしていたんだろ?
考えただけで頭が痛くなる。
『あ、あの俺、スゲービックリしたけど及川さんに飛雄って呼ばれた時、なんか胸がグアーってなって!
何て言ったらいいか分かんねーけど、そのえっと、嬉しかったです!』
止めろよ……そんなこと言うの反則だ。
ダメなのにまた飛雄が好きだって気持ちが、溢れそうになる。
何も言えずずっと黙っている俺にどう思ったのか、飛雄が俺の服の裾を軽く引っ張ってきた。
『今日は機嫌良いと思ってたのに、やっぱり悪いんすね。
部活終わった時は機嫌良かったのに……女子となんかあったんすか?』
『何かあった? そんなことお前に言えるわけないだろ!!』
『? 及川さ、ん?』
『…あ……』
飛雄の顔見ないようにしてたのに、つい振り返ってしまった。
目を大きく見開き、こっちを真っ直ぐ見つめてくる愛しい人。
ダメなんだ、俺はこの恋を終わりにさせないと……
俺は服を掴む手を払い除けて、走り出した。
『あっ! 及川さん!!』
追い掛けてくる飛雄に追い付かれまいと、がむしゃらに速度をあげる。
無心で走っていると、前方に女の子の姿が見えた。
俺は迷わず声をかけた。
『ね、ねぇ君! 俺と一緒に帰らない?』
『え? あっ! 及川先輩!!』
女の子は顔を真っ赤にして、口を手で覆っている。
その手を握って歩き出した。
『手、繋ぎたいな。良いよね?』
『は、はい……』
俺に手を引かれながら、赤面で俯きながら歩く女の子。
やっぱり、女の子は可愛い。
そうだ、俺は男だから女の子が好きなんだ。
絶対そうだ……
そっと振り返ると、飛雄の悲しそうな瞳が俺の視界に映り込んだ。
ただ真っ直ぐ俺達を見つめて立ち尽くす飛雄。
そんな瞳で俺を見るなよ……
胸が苦しくなる。
お前は今、どんな気持ち?
俺は、泣きそうだよ
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