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第120話

及川side 《部活終わったら迎えに行くから待っててね》 無心でメールを打つ。 俺は昨日、一緒に帰った子に別れ間際に告白をした。 理由は飛雄のことを早く忘れるため。 もちろんあの子とは昨日初めて話して、名前すら知らなかった。 好きでもなんでもない子…… 『あの、及川さん……サーブ、教えてください……』 『……嫌だねバーーカ。 こっち来んな、あっち行けよ』 いつもはハキハキした声で教えを請うくせに、今日の飛雄の声には波があった。 昨日一緒に帰ろうと思った相手が、別の人と帰ったことがショックだったのだろう。 『どーしたんだよ? 昨日は影山のこと名前で呼んでたから、仲良くなったのかと思ったのに……』 『別に……あんな奴と仲良くしたくないし』 『影山を送った日に何かあったのかと思ったら、また振り出しに戻ったのかよ……』 俺に追い払われて遠くの方でこっちを見ている飛雄を横目に岩ちゃんが、眉間にシワを寄せて長いため息を吐いた。 まぁ、色々あったけど……それもなかったことにしないとね…… 『岩ちゃん俺彼女出来たから、今日はその子と帰るから……』 『あっそ……最近ずっとオーバーワークしてたから、ちょうど良いんじゃね? で? その相手のこと、ちゃんと好きなのか?』 岩ちゃんの質問に胸がドキリと音をたてた。 なんでそんなこと聞くんだよ……止めてよ岩ちゃん 何が言いたいんだろ? 思わず飛雄の方を見てしまいそうになった自分を、頭の中で叱る。 『あ、当たり前じゃ~ん! その子スゴく可愛いんだよ。 羨ましいでしょ?』 『別に羨ましかねーけど……ちゃんと好きならいい』 何故か低い声でそう言って、コートの中に入って行く岩ちゃんを複雑な気持ちで見送る。 まだ、好きじゃない……でも好きにならないといけないんだ。 部活が終わり岩ちゃんに手を振って、女の子と待ち合わせの場所に向かう。 あれから飛雄の顔は見ないようにしてる。 でも頭の中は飛雄でいっぱいだった。 ダメだな俺……これから彼女と会うんだから、飛雄のこと考えちゃあダメだ。 『おまたせ~遅くなってゴメンね!』 『及川先輩!』 彼女の後ろから声をかけると、彼女が勢いよく振り返った。 『……あ……』 全然違う顔なのに……一瞬彼女の顔が飛雄に見えた… 『及川先輩?』 『へ? あ……ゴメン!』 彼女の声でハッと我に返る。 最低だ俺…… 『あ……ゴメン俺、用事思い出しちゃった…… 先帰ってて……』 『えっ! 及川先輩!』 罪悪感から俺は、思わず彼女に背を向けた。 本当に最低だ…… フラフラと校内を目的もなく歩いていると、前方から女の子達が駆け寄ってきた。 『あっ及川く~ん! 私達これからカラオケ行くんだけど、一緒行かない?』 『あ……うん……』 『やったぁ~! 早く行こ行こ!』 ボーッとしていて、俺は無意識に返事をする。 嬉しそうに俺の腕を引っ張る女の子に、俺はまたハッと我に返った。 『えっ! あっゴメン今のなし!!』 『えーーーーダーメ! 今OKしたんだから一緒に行くの!!』 『ちょっと! 待って!!』 グイグイと楽しそうに引っ張る女の子達に、何も言えなくなる。 彼女いるのに……本当最低だ……

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