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第122話

及川side 卒業してから俺は、親から自立のためだと言われ一人暮らしを始めた。 朝目覚めて、壁にかかった青城の制服に目をやる。 『今日から高校生か……』 もう中学生じゃない。 だから学校に行っても、飛雄はいない。 そう考えた途端鼻が痛くなった。 何考えてんだ俺 もうアイツはいないんだから、これで早く飛雄を忘れることが出来るはずだ。 一人暮らしだし、女の子を家に連れてくることも出来る。 『高校生って、一人暮らしってサイコーだなぁ~♡』 なんて笑って大きな声を出してみたけど、全然笑い続けることが出来なかった。 難しくなった授業、周りは岩ちゃん以外知らない人ばっか。 部活はやっぱりバレー部で、前まで主将だったけど今は、先輩がいて正セッターもいる。 スタメンに選ばれるよう毎日練習に明け暮れて、 部活後は余計なことを考えないように彼女と帰る。 『徹くん! 徹くんってば!』 『え、何?』 いつものように彼女と帰っていたら、何故か彼女が怒っている。 『何じゃないわよ! また余所見してたでしょ!』 『え……余所見なんてしてないよ。ずっと麻里ちゃんのこと見てたよ』 『嘘ばっか! さっき徹くん、横切った男の子のこと見てなかった? 徹くんもしかして男が好きなんじゃないのぉ~?』 笑いながら言われた言葉に、ドクリと大きく心臓が音をたてだした。 笑ってる……これは彼女の冗談だ。大丈夫大丈夫。 『アハハ、変なこと言わないでよ~ 男が好きとかあり得ないでしょ~』 『本当にぃ~? あやしーなぁ~ まぁ許してあげるから、今日徹くんの家行ってい?』 『……うん、もちろんいーよ』 上目遣いに甘い口調でそう言って、彼女が俺の手を握ってきた。 普通はここでドキドキするところだが、俺は出来なかった。 あの時の方が……飛雄を送ったあの日の方が、壊れそうなぐらいドキドキしてた。 彼女をアパートに連れていき、彼女が態とらしくベットに座る。 『徹くん……』 『…………』 色っぽく見つめてくる姿をボーッと見つめていたら、それが何故かだんだん飛雄に見えてきた。 飛雄はこんな色っぽい目で、俺を見てはくれない。 だからこれは飛雄じゃない。 思わず名前を呼びそうになって、慌てて口をつぐむ。 また何考えてんだ、バカだ俺…… 彼女と一緒にいるんだ、飛雄なんてどうでも良いじゃないか。 『どうしたの?』 固まって動かない俺を、不思議そうに見つめてくる彼女。 俺はただ彼女のことだけを考えるように、飛雄を頭の中から無理矢理追い出して、 彼女を押し倒した。 『徹くん♡』 『気持ち良くなりたいの? だったらおねだりして……』 『徹くん……好き。メチャクチャにして♡』 『俺も……俺も、好き…………』 誰が? もちろん彼女が…… 俺は無心で彼女の服を脱がした。 次の朝ふと目覚めて隣を見ると、彼女の方が先に目覚めていた。 『おはよう……』 笑って彼女の手を握ると、何故か彼女は悲しそうな顔をしていた。 あれ? もしかして気持ち良くなかった? 『徹くん……私……私、か、帰るね!』 『えっ! ま、麻里ちゃん?!』 泣きながら素早く服を着る彼女を、慌てて止める。 『ど、どうしたの? まだ早いでしょ?』 『私……徹くんのこと好きだけど、でももうダメだと思う』 『な、なんで?』 『……昨日は徹くんと一緒に居られて嬉しかった。 短かったけど彼女にしてくれてありがとう!』 泣きながら悲しそうに笑う彼女に、何も言えなくなる。 彼女は最後の思い出に、何か俺の物が欲しいと言い出した。 俺は近くに置いてあった、腕時計を渡す。 彼女は嬉しそうにそれを受け取って、最後に俺にキスをして立ち去っていった。 なんで? 俺は何か彼女を悲しませることをしてしまったのだろうか? 分からない……分からないよ

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