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第124話

及川side 『センセ~、この子怪我したみたいなんですけど~……って、あれ?』 保健室に入って先生の姿を探すが、そこには誰も居らず、物音1つ聴こえなかった。 どこ行ったんだろ? ま、いっか。 取り敢えずこの子の怪我を手当てしないと。 1つ小さくため息をついて、女の子を椅子に座らせた。 女の子は何故か俺を、物珍しげにジーっとガン見してきた。 『何?』 『あ、いや……意外と優しいんだなと思って』 『はぁ? それどー言う意味?』 俺は消毒液をケースから取り出しながら、意外と言う言葉に口を歪ませた。 そんな俺に女の子は少し申し訳なさそうに、でも楽しそうに笑って両手を振った。 『わーー怒んないでよ! これでも誉めてるんだよ? だってイケメンって皆にちやほやされていい気になって、自分勝手なイメージがあったから、こうやって保健室に連れてきてくれるなんてってビックリしたの!』 『何そのイメージ……あり得ないんだけど』 『だってイケメンって性格悪いでしょ?』 『悪くないよ、失礼しちゃうな!』 『あなたは優しいイケメンさんなんだね。 イケメンのイメージがこれで変わったよ! 良かったね♪』 酷いことを言って楽しそうに笑う女の子に、俺はまた小さくため息を吐いた。 でも、そんな思ってることをズバズバ言ってくる女の子が珍しくて、なんか面白くて思わず笑ってしまった。 『ハハハ、全然良くないよ。君、面白いね!』 『やっぱりあなたすんごいイケメンだね。 その笑った顔すごく良いよ』 女の子はフワリと微笑んで、突然俺の両頬を包み込んで顔を近付けてきた。 なんなのその笑顔? まあ、笑った顔がすごく好きとは良く言われるけど。 てゆーか近いんだけど…… 突然の女の子の行動に俺は少し腰を引きながら、消毒液の蓋を開けて、膝の傷口に直接垂らした。 『うっわきゃあっっ!! ちょっとぉ! すんごいしみて痛いんだけど! 普通ここは顔を赤くして、ドキドキするとこなんじゃないの?』 『突然顔掴んできて、何言ってんの? 女の子にそう言うことされるのは良くあることだから、別にドキドキなんてしないよ。 まぁ、女の子がそう言うことする時は、それなりのムードになった時だけだけどね。 こーいう時に、こんなことしてくる女の子はあんまいないよ』 『うっわ、モテますアピール! それなりのムードとか、ヤりまくってるってことね!』 『何その言い方! すごいムカつく~』 俺はまた思わず大笑いしてしまう。 こんなに笑ったの久しぶりかも…… 女の子って皆可愛く見せようとして、本当の思ってることあんまり言ったりしないから。 いつも俺に合わせて遠慮ばっかりして、尽くしてる感を見せつけてくるんだよね。 そんなんじゃあ俺も思わず遠慮しちゃって、一緒に居ても面白くない。 でもこの子は思ったことズバズバ言ってきて遠慮なくて、俺も遠慮なく思ったこと言えて、楽で、なんか笑える。 本当に珍しい女の子だよ。 『ところで君、今まで見たことないんだけど? 名前は?』 『ああ、私この前転校してきたばっかだから、見たことなくて当たり前だよ。 改めまして私、新藤 梓って言います! さっきは皆が騒ぐ王子様、及川徹くんがどんなにすごいイケメンかを確かめるために、あそこにいたんだよ!』 そう言って梓ちゃんが、俺に向かってニッと満面の笑みを浮かべた。

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