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第127話
及川side
お喋りなとこは変わらない。
でも、明らかに出会った時の梓ちゃん見たいに、明るくて変なことを言わなくなった。
なんか寂しさと、つまらなさを感じた。
『徹、あの赤い服着た猫取って!』
『ん? あれね、良いよ~』
金曜日、放課後デートにゲーセンに立ち寄る。
梓ちゃんは付き合い出してから俺のこと、徹って呼ぶようになった。
梓ちゃんはそう呼ぶのちょっと恥ずかしそうだけど、俺は他の女の子達にも呼ばれたことあるからもう慣れてる。
クレーンゲームにお金を入れて、赤猫へとクレーンを操作する。
今までの彼女達に何回も取ってあげてたから、このゲームももうかなり手慣れたものになっている。
『徹頑張ってぇ!』
『よし、取~れたっ!』
『うっわスゴい! 徹ありがとう~♡』
梓ちゃんとのデートは、他の女の子達とは違うデートを楽しめると思ってたのに……
いや、違う……きっとこれも愛がないから……
でも、梓ちゃんにはきっと、これから恋が芽生えるはずなんだ。
嬉しそうに猫のぬいぐるみを見つめる彼女をボーッと眺めていると、俺の横をある人が横切っていく。
サラサラな黒髪ショートの人……
『えっ!』
彼女が傍に居るのに俺の身体が無意識に、その背中を追い掛ける。
飛雄、飛雄!!
『え? 徹、どこ行くの!』
飛雄の姿しか見えない。
他の声も音も、何も聞こえない。
無意識に動いて、追い掛けて、ずっと触れたかった飛雄の肩を掴む。
『ねぇ! と…び……え?』
『え??』
振り返ったその人は、俺が追い求めていた飛雄ではなかった。
後ろを追い掛けて来た梓ちゃんが、俺の腕を引っ張る。
『ちょっと徹! どーしたの、その人誰?』
『あ……すみません間違えました……』
『はぁ??』
後ろ姿、背格好は似てたけど、顔が違った。
頭を下げるとその人は、首を傾げながら立ち去っていった。
『徹、突然走って行っちゃうからビックリしたよ!
さっきの人、誰かと勘違いしたの?』
『あ……うん、ゴメンね……いや、別に……気にしないで……
それより梓ちゃん、今日はなんか疲れたから、もう帰ろうよ』
『えーー……まぁ、良いけど……』
梓ちゃんは俺の言葉に納得がいかないような顔をしながらも、ゲーセンを出てくれる。
ちゃんと梓ちゃんの家の前まで送り届けた。
『徹、ありがとね』
『うん、ゴメンね、ゴメンね……じゃあ、ね……』
『じゃあね、バイバイ……』
すぐに梓ちゃんに背を向けて歩き出す。
俺何やってんだ……もう飛雄のことは諦めるって決めたじゃん!
人違いだったけど、何追い掛けてんの!
バカだ……本当にバカだ…… 早く忘れないと
月曜日
学校に到着して靴を履き替えていると、後ろから声をかけられた。
『徹!』
この声は、梓ちゃん。
『あ、梓ちゃんおは……!!』
金曜日のことは無かったことにして笑顔で振り向くと、そこに立っていたのは梓ちゃんだったけど……
前までの彼女とは違っていた。
『徹、おはよう!』
『梓ちゃん……その髪……』
梓ちゃんの黒くてサラサラの綺麗なロングヘアーが、バッサリと短く切られていた。
あんなに、綺麗で長い髪だったのに……
『徹、ショート好きなんでしょ?
思いきって切ってみたの、どーかな?』
『あ、うん……すごくカワイーよ……』
俺のために切ってしまったの……?
黒髪でサラサラショートで、綺麗な……
アイツによく似た髪型
今までの彼女達も、黒髪でサラサラショートな子がいたけどさ、金曜日でのこともあるし。
梓ちゃんは違っててほしかった
飛雄とは違う、特別でいてほしかったんだ
飛雄のことは忘れたい、忘れたいのに……
その髪を見るのがとても苦しくて辛いよ……
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