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第128話

及川side 梓ちゃんのこと好きになりたい。 好きになって、早く飛雄を忘れたい…… でも彼女の髪は、サラサラで黒髪でショートで…… 苦しい……梓ちゃんを見ていると、飛雄を思い出してしまって苦しくなる。 『ねぇー、本当にこの髪型似合ってる?』 『……うん。似合ってるよ……』 満足そうに微笑む彼女、俺は必死に作り笑いを浮かべる。 心中はずっと、中学の時に感じていた胸のモヤモヤが渦巻いている。 梓ちゃんを好きになりたいのに、一緒にいたら辛くなるなんて…… 『ねぇー、及川くん! 久しぶりに一緒に遊ばない?』 『いいでしょー? 及川くん来てくれたら、絶対楽しいよぉ』 放課後 梓ちゃんとの待ち合わせ場所に向かうのを躊躇って、同じところをグルグル何回も歩いていると、数人の女の子達が俺の周りに集まってきた。 この子達と一緒に行ったら、少しはこの曇がかった心も晴れてくれるだろうか? 『うん……良いよ』 『ヤッタァーー!!』 『速く行こ行こぉ!』 《ゴメン! 一緒に帰れなくなった。 今日は一人で帰って》 梓ちゃんにメールを送り、俺は女の子達に腕を引っ張られながら一緒に歩き出す。 なんか俺、情けないな…… そう思っても、この胸のモヤモヤを消したかったんだ。 遊んでる最中も、女の子達に手を振って帰ってるこの瞬間も、未だにモヤモヤは続いている。 アパートに到着して、二階へ上がって廊下を浮かない気持ちで進んでいると、扉の前に一人の女の子が立っていた。 『あ、ずさちゃん……』 『徹おかえり! ゴメンね……迷惑かもしれないけど、待ってた』 笑顔でそう言う彼女の顔が、なんか悲しそうに見えて…… 『迷惑なんて……そんなことないよ』 俺も笑顔を返すけど、心の中は霧がかったままだった。 迷惑じゃないよ。迷惑じゃない…… 『徹!!』 突然梓ちゃんが俺の名前を呼んで、抱き付いてきた。 驚きながら、躊躇いながらも、そっと彼女を抱きしめ返す。 だって俺は、梓ちゃんの彼氏だから。 『徹……今日泊まっていい?』 『……うん……』 頷くのと同時に、俺の背中に回された腕に力がこもったのが分かった。 『良かった……ありがと』 『……うん』 鍵を開けて、彼女を招き入れた。 こんな気持ちで俺、どうすればいいんだ…… 俺は今から、梓ちゃんと恋人とすることをしないといけないんだと思う。 彼氏だから当たり前だ。 『何か飲む?』 『…………』 部屋に入ってから何を考えているのか、ずっと梓ちゃんは無言だった。 空気が重く気まずくて、とにかく何か言わないと…… 必死に会話の鍵を探す。 『梓ちゃんぎ、牛乳でい?』 『…………』 『あ~……牛乳いや? え~と、コーヒー飲める?』 『ねぇ……』 『!! な、何!』 ずっと無言だった梓ちゃんがやっと口を開いてくれて、俺は肩を跳ねらしながら無理矢理笑顔で返事をする。 そんな俺に固い表情で、近付いてくる梓ちゃん。 何て言えばいいのか分からず、ただ近付いてくる彼女を見つめていると、 そっと首に腕を回してキスをしてきた。 突然のことに驚いて、思わず唇を開いてしまった。 その隙間から滑り込んでくる濡れた柔らかい感触に息を呑むだけで、応えることなんて出来ない。 彼女からのキスに応えることが出来ないなんて、彼氏として最低だ。 動きを見せない俺に梓ちゃんは、瞳を揺らしながらそっと唇を解放した。 『……私、徹が好きだよ。徹は私のこと好き?』 『好きだよ……』 正しくは、好きになりたいだ。 そう答えても彼女の表情は色を戻さない。 もう一度俺を強く抱きしめて、梓ちゃんは耳元で囁いてきた。 『だったら、私を抱いてよ 思いっきり』 そう囁かれた次の瞬間にはもう、俺は彼女に押し倒されていた。 『あ、ずさちゃ、ん……』 『……抱いてよ』 色のない顔で俺を見下ろしてくる彼女。 こんな顔にさせてしまったのは俺だ。 俺が彼女をまだ愛せてないから ねぇ、ちゃんと好きになるよ なりたい……だから、また俺の大好きなあの笑顔を見せてほしい。 俺が笑ったら、本当に愛せたら、 見せてくれる? 『好きだよ……梓ちゃん……』 俺は精一杯の笑顔を浮かべて、彼女を引き寄せキスをした。 カーテンの隙間から溢れ出た朝日に照らされ、俺は強く瞼を閉じながら寝返りを打った。 その時何かが手にあたる感触がして、俺はそっと重い瞼を開いた。 『徹……』 『梓ちゃ……おはよ』 開きづらい目を擦りながら、身体を起こして梓ちゃんに目線を向けると 彼女はまた色のない瞳で俺を見つめてこう言った。 『……とびおって誰?』

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